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第八章・13

 秀斗は、唇を噛んだ。  悔しいけど、それしか道が見つからない。  返答に困っていると、丞が秀斗の肩をぽんと叩いた。 「ただ、准には優しくしてやってくれ。あいつ、相当参ってるんだ」 「妊娠したことに、ですか」 「いや、親に堕ろせと散々言われてな」 『秀斗と兄さんの赤ちゃんだもん! 僕、二人とも愛してるんだもん!』  こんなことを言って、部屋に籠ってる。  そう言うと、秀斗の胸は急に締め付けられた。  准は、お兄さんだけじゃなくって、俺のことも愛してくれてるんだ。  だけど、俺は准に何もしてあげられない。  非力だ。  あまりにも、非力だ。 「考えるな。とにかく今は、勉強しろ。それだけだ」  丞は煙草を消すと、携帯灰皿に入れて歩き出した。  秀斗は思わず、その背中に叫んでいた。 「お兄さんは、それでいいんですか!?」  丞は、ただ片手を上げて振っただけだった。

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