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第八章・16

 頑として部屋から出て来ない准に食事を運べるのは、丞だけだった。  朝と晩はいいとして、丞が不在の昼は抜いている。  これでは体に悪い、と母は心配していた。 「あんまり母さんを困らせるな」 「うん……。でも、部屋から出たらきっと病院へ直行だよ」  そして、赤ちゃんを殺されるんだ。  准は、中絶を恐れていた。 「でも、お腹が痛いんだろう? 病院で、診てもらいなさい」 「ね、兄さん。僕のお腹に、手を当てて」 「こうか?」  ふふふ、と准は幸福そうに微笑んだ。 「いつになったら、赤ちゃん動くのかなぁ? 兄さんにも、解るようになるのかな?」 「まだ妊娠8週目だぞ。気が早いな」  そこで准が眉をひそめたので、丞は慌てた。 「痛いのか?」 「ん。お腹、痛い……」  とにかく今夜はゆっくり眠るようにと勧め、丞は准の部屋を出た。

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