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第十章 約束とプロポーズ

 丞に、内示が出た。  首都圏にある本社から、地方都市の支社へ赴任だ。 「主任に昇格しての、出向だ。出世コースに乗ったな!」  周囲は、羨まし気にそう言う。  しかし、丞の心は重かった。  准を残して、単身赴任。  後ろ髪を引かれる思いだった。  おめでとう、と家族はささやかなパーティーを開いてくれた。 「いつからなんだ?」 「来月になると思うよ」  ビールを片手に、父は息子の出世を喜んでいる。 「体に気を付けてね。ちゃんと食べるのよ」  母らしい、気づかいだ。 「夏は、帰って来るの? お盆休みくらい、あるよね」  寂しそうな、准の声。  夏は、秀斗と三人で海に行く約束をしていたのに。 「ごめんな、准」 「ううん」  無理をして、明るく振舞う弟に、胸が痛んだ。

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