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第十章・10

 日曜日、丞は茜に会っていた。  食事ではなく、お茶に誘った。  薫り高いコーヒーの匂いに包まれながら、重い話をしていた。 「准くんに、そんなことが。だからしばらくメールに返信もしなかったんですね」 「すみません」  可哀想な准くん。  多感なこの時期、流産は身を切られるように辛かっただろう。  しかし、真に重い話はここからなのだ。  茜は、丞に好意を持っていた。  丞も、そうだと思っていた。  この人こそ、僕を兄さんの呪縛から解き放ってくれる人。  そんな風に、思っていた。 「実は3年ほど、地方に赴任することになりまして」  丞は、父母に許された条件付きの勘当の話、准と結婚する約束をした話を告白した。 「そんな……」 「俺の方から『結婚を前提としたお付き合いを』なんて言っておきながら、申し訳ありません」  ティーカップを持つ茜の手が、震えた。

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