150 / 172

第十章・13

 途端に、茜は涙を一筋流した。  今日こそ。  今日こそ、『梅宮さん』ではなくって、『丞さん』って呼ぼうと思ってたのに。  温かな紅茶が、すっかり冷めている。  それを一息で干すと、茜は両手で頬をぱん、と叩いた。 「大丈夫。他にいい人は、きっと見つかる!」  そんな前向きな思考を教えてくれたのは、丞なのだ。 「僕が幸せになることが、きっと彼への恩返し」  背を伸ばし、さっと席を立った。  さよなら、丞さん。  また、ね。

ともだちにシェアしよう!