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第十章・13
途端に、茜は涙を一筋流した。
今日こそ。
今日こそ、『梅宮さん』ではなくって、『丞さん』って呼ぼうと思ってたのに。
温かな紅茶が、すっかり冷めている。
それを一息で干すと、茜は両手で頬をぱん、と叩いた。
「大丈夫。他にいい人は、きっと見つかる!」
そんな前向きな思考を教えてくれたのは、丞なのだ。
「僕が幸せになることが、きっと彼への恩返し」
背を伸ばし、さっと席を立った。
さよなら、丞さん。
また、ね。
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