155 / 172

第十一章・5

 卒業後、准は写真の腕をさらに磨くべく、専門学校へ進学した。  兄さんは、いない。  秀斗も、いない。  生まれて初めて、一人ぼっちで新しい道を進んだ。  生まれて初めて、自分だけの足で、歩いた。  何度も、何人からも、愛を告白された。  だがその都度、薬指に光るプラチナの指輪をかざして見せた。  以前、丞に買ってもらった物だ。 「あの時の兄さん、今思い返せば可愛かったな」 「それは准が、大人になったからよ」  笑う、母。  兄さんは、秀斗のくれたシルバーのリングに対抗して、これを買ってくれたんだ。  子どもっぽい意地を、全開にして。 「あぁ、兄さん早く帰ってこないかな~」 「あと1年だ。もうすぐ会える」  お茶を飲む、父。  幸い、両親とも健在だ。  突然の知らせに、丞が飛んで帰って来る事態は避けられた。  そうやって平穏な日々が流れ、3年目の夏がやってきた。

ともだちにシェアしよう!