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第十一章・5
卒業後、准は写真の腕をさらに磨くべく、専門学校へ進学した。
兄さんは、いない。
秀斗も、いない。
生まれて初めて、一人ぼっちで新しい道を進んだ。
生まれて初めて、自分だけの足で、歩いた。
何度も、何人からも、愛を告白された。
だがその都度、薬指に光るプラチナの指輪をかざして見せた。
以前、丞に買ってもらった物だ。
「あの時の兄さん、今思い返せば可愛かったな」
「それは准が、大人になったからよ」
笑う、母。
兄さんは、秀斗のくれたシルバーのリングに対抗して、これを買ってくれたんだ。
子どもっぽい意地を、全開にして。
「あぁ、兄さん早く帰ってこないかな~」
「あと1年だ。もうすぐ会える」
お茶を飲む、父。
幸い、両親とも健在だ。
突然の知らせに、丞が飛んで帰って来る事態は避けられた。
そうやって平穏な日々が流れ、3年目の夏がやってきた。
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