159 / 172

第十一章・9

「兄さんは、もうずっと本社で務めるの? もう地方勤務は、ないよね?」  そんな准の質問に、丞は困った顔をした。 「実は本社で1年務めた後、今度は仙台へ出向することが決まってるんだ」 「嘘!」  准は、ビールの缶を思わず握りつぶしていた。  宴卓は、丞の部屋へ移っていた。 「転勤を繰り返して、昇進していく、というやつだ。准、付いて来てくれるか?」  当たり前でしょ、と准は身を乗り出した。  日本中を転々とできるなんて、素敵だよ、と眼を輝かせた。 「そして僕は、その土地土地の風景や伝承をカメラに収めるんだ。こんなにいいこと、ないよ」 「准」 「何?」 「大人になったなぁ、お前」 「それはそうだよ。あれから3年経つんだよ? 20歳なんだよ?」  そういう事じゃなくって、と丞は准に近づいた。 「精神的に、大人になった」  そして、唇を塞いだ。  3年ぶりのキスは素敵に甘く、激しく熱かった。

ともだちにシェアしよう!