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第十二章・3

 スタジオで家族写真を撮ってもらった後は、ホテルのレストランでささやかな宴席を開いた。 「でもねぇ。タキシード、貸衣装でよかったの? せっかくの晴れの日だもの。母さんが買ってあげたのに」 「一日しか着ないのに、もったいないよ」  スタジオで着替えさせてもらって、今は平服の4人だ。  それでも会話は、自然と結婚式のものになる。 「丞が結納金を奮発してくれたんだもの。余裕よ」 「兄さん、いくら包んだの?」 「秘密だ」  あ、とそこで准が口を円く開けた。 「結納返し、とかしなくてもいいのかな」 「今気が付いたのか、お前は」  やれやれと、父が白い洋形封筒をバッグから出した。 「ここに用意してある。略式で申し訳ないが、丞、受け取ってくれ」 「そんな。いいよ」 「新生活の足しにしなさい。いいから、取っておけ」 「ありがとう!」 「准が言うな!」  家族4人のささやか過ぎる食事会だったが、楽しいひとときを過ごせる幸せを丞は噛みしめていた。

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