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すると、これまで黙って微笑んでいたライが人差し指を頬にあてて言った。
「記憶喪失じゃないとしたら、何だか亜蓮、別の次元から来たみたいだね」
「は……?」
「似ているけど違う世界って、隣同士で平行に時間が進んで行くんだって聞いたことあるし。ちょっとしたきっかけで二つの世界を行き来できたりもすることもあって、大昔から現代までそういう事例はたくさんあったんだ。そう考えれば別に不思議なことじゃない」
「………」
頭の中がこんがらがりそうだ。それとも俺の頭がおかしくなっているから、彼らの言うことが理解できないのだろうか?
皇牙が子供に言い聞かせるような口調で、俺に言った。
「日本、って知ってるか、亜蓮」
「ば、馬鹿にするなっ」
「東京、神奈川は? 静岡や埼玉は」
「知ってる」
「令和町は。極楽通り、西口駅前にあるさそり座の噴水広場は」
「……知らない」
皇牙が溜息をついて「お手上げ」のポーズを取った。
「お、俺は二丁目の『ゴールド』ってゲイバーで働いてたんだ。そこに行けば何か分かるかも……」
「ゴールドなんて店知らねえし、そもそも二丁目にはゲイバーなんか存在しねえよ。ただの住宅街だ」
「そんな馬鹿なことあるはずがっ、……」
突き抜けるような痛みが走り、俺は額を押さえて唇を噛んだ。
どうなってるんだ、一体。ここはどこなんだ。俺は……
「俺は、死んだのか……?」
「ぶっ倒れてたのを拾っただけだ、死んじゃいねえだろ。現に生きてるし」
「………」
「そんな不安そうな顔しねえで。軽く考えろ、今時の若者らしくよ」
まるで他人事のように言ってのける皇牙を見上げ、俺は呟いた。
「……どうして俺を助けたんだ」
皇牙が一歩ずつベッドに近付いてきてしゃがみ込み、俺より目線を低くして言う。
「お前が綺麗だったからだ。放置して死なせるには勿体ねえと思ってさ」
「な、何言って……」
「皇牙は美少年が大好物だからね!」
けらけらとライが笑って、俺の顔は真っ赤になった。
「別に俺は……少年って齢でもないし」
「幾つだ」
「二十一……」
「全然ガキじゃねえか」
更に二人で笑われて、ますます顔が赤くなった。
「亜蓮」
皇牙の声にはっとして、視線を上げる。
「そんなに心配すんな。一時的な記憶喪失なら記憶が戻るまで、マジで別次元から来たならこの街に慣れるまで、俺が責任持って面倒見てやる。覚えてねえこと、分からねえことはちゃんと教えてやるから、俺の店で働けばいい」
「………」
「まずはウェイターからだな。給料も初めは小遣い程度だが、頑張り次第で上にのし上がって行ける」
「ねえ、亜蓮はそのゲイバーでどういう仕事してたの?」
ライに訊かれて、俺は呟いた。
「……別に。言われたことをやってただけだ」
「じゃあ、決まりだな」
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