5 / 60

1-4

 あの部屋の外に広がっていたのは、見覚えこそないものの俺がいた新宿とあまり大差ない夜の街だった。  カラフルな電飾が光る店の看板、流れるハイテンポな音楽。人混みに喧噪。空を覆う厚い雲の表面には、そんな街のネオンが薄らと映っている。 「どうだ、何か思い出したか?」 「……見た限りだと、丸っきり東京って感じだけど」  だけど違う。やっぱり、この街は俺が知っている新宿じゃない。  駅前東口正面のアルタが変な飲み屋のビルになっているし、新宿通りのブランドショップがただのキャバクラになっている。そもそも新宿通りという名前でもなく、代わりに「令和町商店街」「極楽通り」という全く知らない標識が出ていた。  ……新宿という名前なだけで、中身は全然違う街。 「絶対に俺の記憶違いじゃない。だって、昨日までのことははっきり覚えてるんだ」 「そうか。……だとすると、ライが言ってた『別次元説』が妙に濃厚になってくるんだよなぁ。亜蓮、この中に知ってる顔がいたりしねえよな?」  皇牙に言われ、俺は歩きながら通行人や店員の顔をさり気なくチェックしてみた。  知った顔はないけれど、すれ違う人達も、馬鹿笑いしている集団も、路地で煙草を吸っている連中も、いたって普通の、どこにでもいる人間に見える。が、…… 「男ばっかりだな。女は店の中か?」  夜の東京には必要不可欠だった華やかな女達の姿が見当たらない。店の前に立つのもキャッチをするのも、客らしき男と腕を組んでいるのも、ほぼ全員男だ。 「女も普通にいるが、数では男の方が圧倒的に多いな。ここは『そういう街』だからよ」  俺は皇牙の隣を歩きながら、皇牙自身もゲイなのかと尋ねようとして……やめた。俺には関係のないことだ。俺自身男としかセックスしないけど、別に皇牙がゲイだからって寝るつもりはない。 「慣れるまでは俺が仕事を教えてやる。離れていてもお前を見張ってるから安心しろ」  ちなみに、と皇牙が人差し指を振った。 「ウチのクラブ内では本番挿入のセックスは無しだ。特に売春、薬、暴力は禁止。中でも薬だけは絶対に禁止。このルールを破る奴は問答無用で叩き出す」 「ふうん……」 「クラブで出会った相手とホテルにしけこむのは問題ねえ。……まあお前に関しては、もちろん俺の許可を得られたら。の話だけどな」  そう言って皇牙が俺の尻を鷲掴みにした。驚いて体がビクつき、咄嗟にその屈強な体を押し退ける。 「っ、触るなよ!」 「もしセックスしてえなら、しばらくはそっちの面倒も俺が見てやるけど?」 「余計な世話だ……そこまで管理される筋合いはねえ」 「残念だな。ここでは俺に抱かれたがる奴らがワンサカいるってのに」 「……馬鹿じゃねえの」  呟き、再び歩き出す。

ともだちにシェアしよう!