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〈聞こえるか亜蓮。曲は七分と三十七秒だ、始めから行くぞ〉
もうフロア内に皇牙の姿はない。恐らくスタッフルームでニコラの様子を伺いつつ、モニターで俺を見ているのだ。
〈――スタート!〉
さっきニコラが使っていたのとは違う曲が流れ始め、俺はポールを強く握って背中を弓なりに反らせた。
持ち上げた右脚をポールに巻き付け、そのまま左腕を大きく伸ばし、手の届く限りポールの一番高い部分を掴む。右脚だけで立った状態で腰を落とし、一秒後にまたポールに体を擦り付けるようにして身を起こす。
右手で掴んだポールに背中と後頭部を付け、観客に体を向けて左手で胸に触れる。下からすくい上げるように胸を撫でてから、ゆっくりとその手を下半身へと下ろして行く。同時に両脚を開いたまま腰を落とし、開脚した内股に手を添え見せつけるように撫で回した。
〈凄げえな、亜蓮、堪んねえくらいセクシーだ〉
耳のインカムを通して、皇牙の低い声が鼓膜に注ぎ込まれる。拍手や指笛よりも強く、はっきりと――皇牙の声が、俺のナカを揺さぶる。
俺の動きに合わせて揺れる鎖。体に這う細い蛇のようにしなやかに、妖艶に、まるで意思を持っているかのように。
握った鎖に口付け、舌で舐め上げてから股下に通しゆっくりと焦らすように腰を擦り付ける。それから裸の上半身に鎖を巻き付けて緊縛ポーズを決めると、客席から「いいぞ!」と声があがった。
〈亜蓮、もっと見せつけてやれ。客が欲情してシコり出すくらいにな〉
〈お下品だよ、皇牙~〉
皇牙に続いてライの声も聞こえ、思わず少し笑ってしまった。その笑みを利用して唇を舌で舐め、――思い切りステージを蹴り上げ、腕に力を入れる。
〈うおぉぉぉ!〉
耳元でライが叫んだのと、四方から歓声が浴びせられたのとほぼ同時だった。
体を逆さまにして重力に逆らい、体重を支える腕と、ポールを挟んだ片脚の太股に力を込める。比較的簡単なブラスモンキーという技だが、練習なしでも体は覚えているものだ。――というか、ポールダンスのトリック技はこれしか知らないだけなんだけど。
体を戻してステージに片膝をつき、ポールに股間を押し付けながらゆっくりと立ち上がる。思い切り背中を仰け反らせ、俺はフロアの天井を仰いだ。
「……はぁ、……は、……」
うんざりしていたはずのステージ。脱いで裸を見せない限り、誰も俺を見ることはなかった。俺を雇った支配人すらこう言っていた――ポール技なんかどうでもいい。過激なストリップが出来ないなら、いつでも辞めてもらって構わない。
「っ、ふ……、あ」
だけど違う。ここでは皆が、俺を――俺のストリップを、目を輝かせながら見てくれている。
〈最高に美しいぜ、亜蓮〉
皇牙の声。興奮と熱気、言い様のない高揚感に体が疼いて仕方がない。
〈何十人もの客がお前を見ている。お前の体、表情、全部だ。……亜蓮、疼いた体を解放しろ。残りの二分は自分のために踊れ〉
「ん、あぁっ……!」
心臓が早鐘を打つ。もう、熱いのが止まらない――。
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