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皇牙が前の旦那と離婚したのは、皇牙のナイトクラブ、ダチュラが関係していた。初めは小規模なクラブだったのがあっという間に大きくなり、金には困らなくなったものの、それと同時に皇牙が家にいる時間が極端に少なくなったせいだ。
仕事と家庭、どっちを取るか。それによる夫婦・パートナー間のトラブルは俺がいた元の世界でもよくある話だ。皇牙にとっては家族と同じくらい、ダチュラの従業員も大事な存在だった。
皇牙のパートナーも皇牙の信念を理解していたが、結局は皇牙とは離婚し自分の親が住んでいる街に引っ越すこととなったらしい。
「別に離婚まですることはなかったんじゃないのか? ただの別居ならいつでも飛弦と会えたのに」
アパートから数分の距離にある芝生広場。走り回る飛弦を見つめながら呟くと、ベンチに座って煙草を咥えた皇牙が力無く笑って言った。
「色々あんだよ、大人はな」
「色々ねぇ……」
「離れて暮らしているうちに、俺よりいい男が見つかったりな」
「……ああ、そういうことか」
「なあ、皇ちゃん!」
ボールを蹴りながらパタパタと走ってきた飛弦が、皇牙の膝に両手をついて笑った。
「どうした? また勝負か?」
「あのさあ、亜蓮は皇ちゃんのクラブで働いてんだろ!」
「そうだが」
「おれも働きたいっ!」
「へ、……?」
皇牙が慌ててベンチ横の灰皿で煙草を処理し、飛弦を抱き上げ膝に跨らせた。
「何言ってんだ、急に」
「おれも、ダチュラで働かせてくれ!」
「ありがとうよ飛弦。でも、もう少し大きくなったらな。今働かせたら俺はお前のパパに殺される」
そうかぁ、と飛弦が残念そうに肩を落とす。
「なあ」
俺は伸ばした手でその小さな頭を撫で、飛弦の顔を上げさせた。
「飛弦は、どうしてクラブで働きたいんだ?」
「お金! お金欲しいから!」
「欲しい物があるなら俺が買ってやるって。何でも言ってみろ」
「ううん。物とかじゃなくてさ。これから学校たくさん行くのにお金がかかるけど、パパも大変そうだからなるべく自分で払いたいと思って。ご飯食べるのと、婆ちゃんのお世話もあるし……おれの学校までお金を回せないんだよ」
「………」
皇牙が飛弦を抱きしめ、何度も頭を撫でて「大丈夫だ」と囁いた。
改めてこの世界の現実を思い知らされる。飛弦は学校へ行っているのだろうか? 誰が勉強を、社会生活を教えているのだろう。更に胸が痛むのは、そんな状況でも家族と住む家があるだけ飛弦はかなり恵まれている方だということだ。
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