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それから三人でサッカーをして、街まで出てアイスクリームを食べ、夕食は屋台のビッグハンバーグ・スティックにフライドポテトと特大コーラ、帰ってから皇牙のパンケーキも食べた。
一週間のうち、たった一日の親子の触れ合い。皇牙も飛弦もずっと手を繋ぎ、笑っていた。
「じゃあね、皇ちゃん。亜蓮も。また来週行くから遊ぼうね!」
「ああ、待ってる。よく寝ろよ」
「またな、飛弦。……あー、……ちょっとだけパパと喋ってもいいか」
飛弦の家の前で車を止め、皇牙が車を降りた。家の中から出てきた飛弦の元旦那が、腕組みをしてこちらを見ている。綺麗な男だったがその顔は寂しそうで、生活に疲れているようにも見えた。
玄関先で何やら話している皇牙と、皇牙の元旦那である飛弦の父親。身振り手振りから察するにちょっとした言い合いになっているらしい。後部座席からそれを見ていた俺は仕方なく視線を戻し、飛弦が手のひらに描いてくれたクマの絵を見つめた。
「……悪い、待たせたな。それから今日は付き合ってもらって済まなかった」
「いいよ、俺も楽しかったし」
皇牙の運転で再びアパートに戻り、特に話すこともなく順番にシャワーを浴びる。寝床は俺が寝室のベッド、皇牙はリビングのソファだ。ここに来てからずっと、「お前の方が体力的に疲れているから」と皇牙がベッドを譲ってくれている。有難いけど、……今日はまだ眠りたくなかった。
「そんじゃ、ゆっくり休めよ。電気消しとくぞ」
「皇牙」
「うん?」
俺はベッドの上で体を起こし、皇牙の目は見ずに「もう少し話していたい」と呟いた。
ゆっくりと皇牙が近付いてきて、ベッドの端に腰を下ろす。
「絵本でも読んでやるか?」
「……さっき、飛弦の父親と何を話してたんだ?」
「ああ、別に……飛弦に言われた通り、学費や生活費を何とかさせてくれって。まあ、馬鹿にすんなって断られたけどな。親のことまで上から目線で口出すなって、突っぱねられた」
「……そんなつもりないのに。だって皇牙はっ、……」
「仕方ねえよ。プライドが高い奴だし、金で結婚した訳じゃねえし。いよいよとなったら無理矢理にでも金を渡すさ。今俺にできるのはそれだけだ」
俺は唇を噛んで俯いた。――目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとなる。
「……何泣きそうなツラしてんだよ、亜蓮」
苦笑した皇牙が俺の鼻を摘まみ、それから頭を撫でた。
「お、俺……ショックでさ。飛弦みたいな小さい子供が、学校へ行くために娼館で働きたいなんて、……凄くショックで、……」
「俺もビビったけど、意味を知らねえで言っただけだ。本気じゃない」
「だけど成長したらきっとすぐに意味を理解する。理解して覚悟して、我慢して体を売り始める。遠い将来の話じゃない……ほんの二、三年後だ。飛弦には今、救いが必要なんだって」
飛弦は今日、皇牙に助けを求めていた。
そうじゃなきゃ働き口の話なんて切り出さない。とっくに覚悟を決めていたならきっと、誰にも言わず家を飛び出し娼館へ駆け込んでいる。
俺には分かる。まだ覚悟が決まらない今だからこそ、飛弦はあの小さな手で――皇牙に助けを求めていたんだ。
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