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8-1
翌日――
「………」
「亜蓮。ちょっと余計なこと考えてるね」
「え? そ、そんなことはない……」
スタッフルームの練習スペースでポールに寄りかかっていると、ステラが目を細めて「コラ」と俺を叱った。
「教えて欲しいって言うから教えにきたのに、亜蓮、うわの空」
「悪い、……ちょっと考え事してたのは事実」
「少し休憩にしようか」
ステラにレッグハングとニーロックの練習を見てもらいたいと言ったのは俺だ。新しい技を覚えられると思って、あんなに楽しみにしていたのに。
どうしても、昨夜のことが頭をちらついてしまう。
「………」
数え切れないほど男を受け入れてきたはずの、この体。最後に寝た男の顔は忘れても、確実にそれ自体をしたのは覚えている。
俺にはセックスしかなかった。金だって、ストリップで男を惹き付けて結局はセックスで稼いでいた。一晩で五人以上相手にしたこともある。金のために自分から誰かを誘うことだってあった。
この知らない街に来た理由や方法が、もしも人知を超えた力によるものだとしたら。
体と心の変化はもしかしたら、俺への――再生のチャンスなのかもしれない。
「あ、皇牙。お疲れ」
「おう、お疲れステラ。ライ見たか? 連絡しても出ねえんだ」
「見てない。どっかで寝てるんじゃないの」
「だろうな」
スタッフルームに入って来た皇牙が、壁に背を付けて座り込む俺を見て「おっ」と声をあげた。
「よう、亜蓮。練習してたのか」
「……うん」
「ポールダンスなんて、俺には逆立ちしても出来ねえからな。いっちょ見せてくれよ」
「皇牙は、筋肉の無駄遣い」
ステラがくすくすと笑って言った。
「亜蓮、さっきのやってみて、皇牙に見せてあげて」
「あ、ああ」
立ち上がり、タオルで手汗を拭いてからマットに上がってポールを握る。
軽く跳ねてよじ登り、右膝をポールにかけて左脚を真っ直ぐ伸ばし、握っていたポールを離して下半身から上体を仰向けでゆっくりと下へ倒す。右の膝と太股裏の力だけで体重を支え、体を逆さまにさせる。レッグハングはトリック技の基本だ。
「亜蓮。左脚をもっと美しく、ピンと伸ばして」
「や、……やってる」
「両手を優雅に広げて、鳥のように、無重力を感じて」
ステラが「アン・ドゥ・トロワ」と的外れなリズムを取って手を叩く。腕組みをした皇牙が俺の元まで来て、「大したモンだな」と感嘆の溜息を漏らした。
これまでエロいストリップしかしてこなかった俺は、ポールダンスなんて数える程度しかやったことがない。出来る技はブラスモンキーだけで、ポールを両手で握ってかつ腕の力を借りないと、脚だけでは体重を支えられなかった。
ステラに鍛え方を教わったお陰で、何とか基本のレッグハングは出来るようになったものの。
「亜蓮。そこからニーロック」
「ぐ、……」
下にだらりと下げた上体を持ち上げるだけでも一苦労だ。一旦伸ばした手でポールを握り、ひと呼吸つく。
「休んでても音楽は止まらないよ」
「わ、分かってるって……」
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