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8-2

 伸ばしていた左脚の膝を曲げ、脛をポールにつける。この状態でまた手を離し、優雅に広げて、鳥のように―― 「っ、……!」  右膝の裏でポールが擦れる感覚があって、ずるりと体が落下した。 「亜蓮、落ちるよ!」 「………!」  下にマットは敷いてあるが、肩や腰、腕を強打したら今夜のステージに支障が出る。咄嗟に受け身の体勢を取ろうとした、が―― 「わっ」  俺の体は床に落ちることなく、途中でぴたりと停止した。 「あぶねえ……ギリギリセーフ」 「こ、皇牙っ……?」  正確には落ちる途中で皇牙の腕に支えられ、そのまま横抱きにされていたのだ。 「あ、……」  顔が近い。 「大丈夫か、亜蓮」  声が、視線が、近い――。 「……だっ、大丈夫。降ろしてくれ」  床に降りた俺は皇牙に背を向け、別の意味で額に浮かんだ冷や汗を手の甲で拭った。  何故こんなに緊張しているんだろう。皇牙とはもう、あんなことまでした仲なのに……  これまで一度寝た相手には遠慮がなくなって、卑猥な冗談や軽口を叩いていた俺。だけどどうして皇牙にだけ、どうして……こんなに胸が高鳴ってしまうんだろう。 「亜蓮、顔赤いよ」 「あ、ああ。少し色々と……焦ったから」  ステラが俺の正面に回り込み、真っ赤になった俺の顔をジト目で見上げる。 「………」 「何じっと見てんだよ……」 「顔赤いから」 「だ、だからこれはっ……」  慌てる俺の頭を後ろからがしがしと撫でてきたのは皇牙だ。 「亜蓮もポールから落ちることがあるんだな!」 「ひ、人をサルみたいにっ……」  俺の気も知らず呑気に笑う皇牙。  心臓は未だ高鳴っていた。……激しく、だけど少しだけ心地好く。

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