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 ステラに教わったニーロックはだいぶ形になってきたものの、皇牙への胸の高鳴りの理由がまだ分からないまま過ぎた五日後、午後九時――。 「あ、あう……皆見てるよぉ、ステラ……恥ずかしい」 「大丈夫。俺のことだけを見てて、ニコラ。恥ずかしい顔、俺だけに見せて……」  銀色の鳥かごの中。白い翼を生やしたニコラとステラが抱き合い、濃厚に絡み合っている。ニコラの方はまだ慣れずに赤面しているが、ステラは普段通りの白い顔でニコラの白いレザーパンツの中へ手を入れていた。 「ひゃ、ぁっ……」 「お尻、柔らかい。もっと押し付けて、ニコラ」  鳥かごには鼻息を荒くさせた男達が群がり、キスを繰り返しながら抱き合う二人の天使を食い入るように凝視している。俺もその一人だった――と言っても今の俺は休憩を利用してソファに座り、酒を飲んでいるだけだけれど。  今日はオープンからエントランスの水槽を任され、その後で二階の空いていた円形ステージに勝手に乗り、好きに踊ってそこそこチップをもらい、その金で今ピーチ・スパークルをちびちびと飲んでいる。  俺のメインステージは一時間半後だ。それまでまだまだ時間はある。 「亜蓮、今日も大人気だったな!」  ライが来て俺の隣に座り、煙草を咥えた。皇牙の補佐役であるライは誰にでも気さくで性格も底抜けに明るいが、俺はこの男の見かけによらないサディスティックな一面を知っている。ついさっきも中央ステージでレザーマスクを被った男の顔面に跨り、上からペニスへ蝋燭を垂らすというパフォーマンスをやってのけたばかりだ。その時のライの頬は赤く染まり、パンツ越しでも分かるほど勃起していた。 「お疲れ、チェーン・ストリッパー。組んだ生脚がそそるね。半ケツパンツ似合ってる」 「よう、サディスト。お前も蝋燭が似合ってる」 「違うってば、あれはただのパフォーマンス! ……と言っても、半分は本気だったけどな~」  ライが笑って紫煙を吐き、俺も苦笑した。 「皇牙は?」 「んー、何か一階のVIP部屋でブロンドの美女と話してたよ。仕事の話みたい」 「ふうん……」 「なに、ヤキモチ? 亜蓮ってば皇牙のこと気になってる?」 「………」  冷めた目でライを睨んでから、俺はグラスに口を付けた。  皇牙が男を好きなのは知っているから、別にブロンド美女と一緒にいた所で何の嫉妬心も沸かないけれど。  ――絵になるんだろうな。  そう思うと少しだけ、胸が焦げたように痛くなる。  その痛みから意識を逸らそうとして、俺はライに問いかけた。 「……皇牙と元旦那って、今は上手く行ってないのか?」

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