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俺のそこが「リセット」されたと分かったあの日から、俺達は一度も触れ合っていない。帰ったら疲れて寝てしまうからそんな暇がないというのも理由の一つだけど、どうやら皇牙は俺に気を遣っているらしいのだ。そんな気なんて全然、一ミリも必要ないのに。
「処女が重いならどっかで捨ててくるけど」
「馬鹿野郎、そんなこと言うな。俺はお前を大事にしたいって意味で言ってんだよ」
「この体にそんな価値はない。……お前と会うまでに、……散々自分で汚してきた……」
跨ったまま皇牙の肩に額を押し付けたのは、無様な泣き顔を見られたくなかったからだ。幾ら体がリセットされたって、記憶にはこれまでの過去がしっかりと刻まれている。
そんな俺だからこそ皇牙は慎重になっているのだと、頭では分かっているのに。
「皇牙に、……抱いて欲しくて」
「………」
「……もう俺、お前を好きになってるから……」
ようやくそれに気付いたのは、言葉にした後だった。
俺も皇牙に助けられた孤児の内の一人だったんだ。男と揉み合った末に倒れたあの時、意識が薄れて行く中でこれまでの人生を振り返った俺には後悔しか残っていなかった。
俺があの家を飛び出して得たのは、汚い金と薄情な男達だけ。本当は希望と愛情が欲しかった。自信が欲しかった。愛し愛される歓びが知りたかった。生きる理由が知りたかった。
心から、満足できるステージに立ちたかった――。
「……亜蓮」
「………」
それを叶えてくれた皇牙を、これまで俺を守ってきてくれた皇牙を、俺は好きになってしまった。こんな気持ちは初めてで、自分でもどうしたら良いのか分からない。
傍にいたい。俺は皇牙の傍にいたいだけだ。
「泣くな」
拭ったそばから溢れ零れる涙。こんな風に泣くのもいつ振りだろう。悲しい訳じゃない。ただ気持ちが抑えられなくて、こんなに近くにいるのに皇牙のことを思うと涙が止まらない。
「ほら」
皇牙の手が俺の頬に触れ、顔を上げるように促してくる。
「俺の目を見ろ、亜蓮」
「……やだ」
「見ろ」
今度は両手で頬を潰され、強引に視線を上げさせられた。
皇牙の青い眼。青と、濃い青と、それから水色が複雑に混じった綺麗な色。
こんな色の空が大好きだった。なのにいつも俺が見上げた空は真っ暗で、重くて、雲にはネオンの光が映っていて。
「……お前はいい男だな。亜蓮」
「は、……ど、どこがっ」
「その顔。デカい目も、長い睫毛、小さい鼻に、下唇がぽってりしてるのも。綺麗な金髪と、鎖骨と、その鎖。薄い筋肉だけどしっかり鍛えられた体、全部さ」
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