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「例のヤツは使ってないだろうな」  闇示がニコリと笑って、青年の頭を撫でながら言った。 「使ってないさ。自分から来てくれる可愛い男の子には、使う理由もないしな」 「………」 「少し彼と大事な話をしても良いか? 後で必ず迎えに行くから、連絡を待っててくれ」  闇示が青年に言うと、その胸から離れた青年が俺を一瞥し別のフロアへ歩いて行った。 「……今日は、皇牙と一緒じゃないのか?」 「仕事中だ。俺が皇牙の代わりにあんたに忠告するよ。もしまたあの毒を使ったら――」 「使いたくても、そう簡単には使えない。何しろあの小さな錠剤たった一粒の値段が、君の一晩の稼ぎでも買えないほどの金額だからな」  ポケットに手を入れた闇示が俺の胸元から太股までに視線を這わせる。卑猥な意味ではない。稲妻に似たレーザータイプのブルーライトが俺の体の上を滑って行ったのを、目で追っただけだ。 「一晩付き合ってくれるなら、特別に分けてあげてもいいが」 「遠慮しとく。薬にもあんたにも興味ないし」 「薬じゃねえさ」 「毒だって言うんだろ」  恐ろしいまでの無表情。これをクールと取るか、血の気の通っていない顔と取るかでこの男の印象が変わってくるのだろう。  俺にはこの男の考えていることが分からない。どんなにその赤い目を探っても、心の中が鉄の壁でシャットアウトされているかのようだ。誰にも心を覗かせないけれど、人の心に入り込むことには長けている人間。なるべくなら関わりたくないタイプだった。 「さっさとダチュラから出て行ってくれ。本当にあの毒を使っていないなら、今日のところは皇牙には黙っていてやる」  踵を返し、闇示から離れようとしたその時―― 「……触んなっ!」  後ろから闇示に鎖を掴まれ、俺は身を捩ってその手を振りほどいた。 「おっかない顔するなよ。悪かった」  鎖から手を離した闇示が、「ところで」とその手で俺の顎に触れる。 「皇牙の大事な坊主は、父親に似ずなかなか美しい少年だな」 「っ……!」  咄嗟に振り上げた拳は呆気なく掴まれてしまったが、俺は至近距離で闇示の赤い目を睨み据えたまま低い声で言った。 「……飛弦に何かしたら、絶対、許さねえぞ……」 「何かするのは俺じゃない。金を払った客だ」 「な、……」 「親切に忠告してやっただけさ。ダチュラの外を、街の中心に向かって知らない男と歩いていた。ついさっきだ」 「………」  一気に血の気が引いて行くのを感じた。  闇示に掴まれた腕が震える。 「そんな、はずはない……。飛弦には監視が……」 「……子供は馬鹿じゃねえ。自分に監視が付いてても、それをかいくぐって街に出ることくらいできる。役立たずのSPは今頃、ガキが家で寝てると思い込んで誰もいない子供部屋を見張ってるさ」  まあ、取り敢えず。と、闇示が空いた手で髪をかき上げて俺から視線を逸らす。 「ガキとはいえ男が決めてやったことだろ。口出ししてやるなよ」 「放せっ!」  俺は闇示の手を振りほどき、通りがかったウェイターからシャツを借りて素肌の上にそれを羽織った。 「そんなに大事なら、次からは鎖で繋いでおいてやるんだな」  闇示の声を背中に受けながら走り出す。  今にも破れそうなほど、心臓が高鳴っていた。

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