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 ……頭が痛い。頭蓋骨の奥の奥、名前も知らない場所にずきずきとした激痛が走る。  この世界に来た時に感じた痛みと一緒だ。だけど俺が目覚めたのは、皇牙の部屋のベッドではなかった。 「目が覚めたな、亜蓮」 「……闇示……」  睨んだところで目の前に立った男の表情は少しも崩れない。俺は皇牙の部屋と打って変わって無機質な、天井も壁も灰色一色の部屋にいた。部屋の隅にベッドはあるが、寝かされていた訳ではない。 「っ……」  肩の痛みに顔を顰め、そこで初めて気付く。  俺は部屋の中央で、……天井から伸びた二本の鎖により両手を拘束されていた。  ウェイターに借りた黒いシャツは脱がされている。穿いているのはステージ用のショートパンツと、いつもの膝下までの黒いブーツ、そして鎖付きの首輪。  手首にはめられた枷からは、俺の首輪に付いているそれとは違って太く頑丈な鎖が伸びている。立ったまま、俺は両腕を上げた状態で灰色の空間に固定されていた。 「……ダチュラであんたとキスしてた男はどうしたんだ。約束してたんだろ、あんたを待ってるんじゃねえのか」 「さあ、知らねえよ。寝るだけの相手なんてどうでもいいんでね」  闇示が俺の目の前に設置された椅子に座り、脚を組む。一人掛け用の重厚な椅子だ。観賞席――胸がムカついて吐きそうになる。 「俺を騙すために、飛弦の名前を出したってことか……」 「ガキを使うのは気が引けたが、そうでもしないとお前をダチュラの外に出せなかったからな」 「………」 「皇牙のガキは無事だ。昨夜と同じように今夜も自分の部屋で眠ってる」  ……良かった……。  騙されたのは悔しいが、飛弦が無事だと知り心の底からホッとする。 「……それで、俺と一発二発ヤッて終わりか。さっさとこの手錠を外せよ。こんなモンで縛らなくたって、あんたの上に跨って二分でイかせてやるからよ」 「圧倒的に不利な立場にいながら、まだそういう口が利けるというのはいいな。……気の強い男は好きだぜ、亜蓮」  感情のない、冷たく赤い目が俺の体を這う。下から上へ舐めるように、ゆっくりと。視線で犯されていると思うと耐え難い嫌悪感から体中が熱くなった。 「亜蓮。俺はお前のステージを見てその美しさを認め、お前を手に入れたいと思ったんだ」 「………」 「始めは俺の店の最高級男娼として働かせようかとも思ったが、それじゃあ勿体ない。お前は金を産むよりも、俺だけを満足させるために踊るんだ――この先、ずっとな」 「この場所は……」 「ここは俺の店の裏部屋。普段は言うことを聞かねえ男娼の仕置き部屋として使ってるが、お前のために改装してやってもいい。ちゃんと俺の言うことを聞くなら、モニターも冷蔵庫も天蓋付きダブルベッドも用意してやる。食事も毎回一流のフルコースを出そう。――どうだ? 悪くないと思うんだが」

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