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第4話

真夜中の理科室。 いつにも増して不気味さが増している室内に入って行くと、窓際の机の一角に、よく見慣れた人物が立っていた。 「いらっしゃい」 その人物はお湯の入った2個のビーカーにそれぞれティーバッグを入れ、向かいの席にそっと置いた。 「紅茶は飲める?」 「...松村先生」 裕太の声に、理科教師の松村康介(まつむらこうすけ)は優しく微笑んだ。 そんな彼を訝し気に見ながら、裕太と弘弥は松村の席まで歩み寄る。 「出来れば冷めないうちに飲んでほしいんだけど。ああ猫舌だったりする?」 「いや...」 松村の勧めに、裕太はビーカーに入った紅茶を手に取った。 「先生」 「ん?」 「もてなしとかいいですから」 弘弥の真面目な声色に、裕太は紅茶を口に含んだまま凝視する。 「あるんでしょ、七不思議」 その直球な物言いに思わず吹き出しそうになる。 「おまっ、そんな...」 慌てながらも松村の顔色を伺う裕太と顔色を変えない弘弥に、松村は大きなため息をついた。 「久しぶりのお客様だったんだけどな。...まあ時間も時間だし、じらしてもアレか」 そういうと松村は紅茶をそのままに立ち上がり、理科室のカギを閉めた。 ...何となく酸素が薄くなった気がする。 「このことは他言無用。いいな?」 松村の目つきが変わった。いつもの優しい彼とは違う強めの口調や雰囲気に、裕太がごくりと唾を飲み込み、弘弥は息を詰める。2人の頷きを確認して、松村が指を大きく鳴らす。 パチンッ! クリアな音が聞こえた瞬間、蛇が地面を進むような耳障りの悪い音が四方からし始めた。 しかし周りが暗いため、何があるのかよく見えない。 裕太はなるべく音がする方から遠ざかろうとし、弘弥は暗闇をじっと探るように見つめる。 そんな二人の生徒の様子を、松村は机に座り足を組んで楽しそうに見ていた。 「先生っ!」 「んー?」 裕太の焦りに、松村はのんびりと返事をする。 「この音何!」 「だから、お前らが知りたがってた七不思議」 「意味わかんねーよ!」 怖すぎて段々涙が溜まってくるが、何とか虚勢を張ってこらえる。 「俺から聞くより体感してもらった方が早いだろ」 「は?」 体感...? 松村の不敵な笑みに思わず後ずさりしたその時、足元に何かが絡みついてきた。 「ヒッ‼」 驚き離れようとするが、”何か”はどんどん足を絡め取っていく。 後ろを振り返ると、そこには植物の蔦のようなものが大量にうごめいていた。

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