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第7話

 振り向きざま戸神を()め据えたものの、朗らかな笑顔でいなされた。  夏服への移行期間にあたる六月初旬のこの時期、半袖のシャツで登校してくる生徒がいれば、長袖のシャツで通す生徒もいる。  戸神は前者で、袖口から覗く二の腕は意外なほどたくましい。  そこが教師という立場の不自由な点だ。唯一、自由の利く右足で戸神に蹴りをくれたくても心理的なブレーキが働く。  理由の如何(いかん)を問わず体罰はまかりならぬ、という風潮があり、その旨、先日の職員会議であらためて校長から申し送りがあったばかりだ。  端的に言えば足下を見られた。いけぞんざいに谷間が暴かれ、悪がしこい指が尻肉の岨道(そばみち)を這い進む。  試みにひとひら、ギャザーを解き伸ばされると総毛立った。 「さあ、前振りはこのくらいにして授業を始めようよ。先生のリサイタルがメインの〝特別授業〟を」  咳払いでひと呼吸おいて、リコーダーを花芯にあてがってくる。  仁科は瞬時、凍りつき、一転して猛烈な勢いでかぶりを振った。尻でリコーダーを吹け云々とは比喩じゃないのか? まさか本気なのか? 「授業中は私語は禁止、暴れるのも禁止」  鹿爪らしげにそう言うと、戸神は人差し指をメトロノームのように左右に振った。それから媚薬成分配合と謳い文句にあるチューブのキャップをひねった。毒々しい色合いのジェルを掌に搾り出す。  実をいえば、仁科は高をくくっているきらいがあった。戸神は悪乗りしているにすぎなくて、適当なところで自分を解放するだろう──と。  しかし甘かった。ぬめりを帯びた指が花芯に分け入り、浅い位置をかき混ぜる。  異物感に苛まれて吐き気をもよおした。  いやだ、さわるな、やめろ……! スラックスの右足部分は、ぺちゃんこの状態にある。教壇を踏み鳴らすたびに、それが蛇のようにのたくった。  尻たぶが割り広げられて陰門に風を感じた。ぬらぬらする感触が若干、薄らいだことで逆に潤滑剤でべたついているのだと思い知らされる。  品定めをするような視線が、もっともプライベートな箇所に突き刺さる。仁科は、たまらず蹴りを放った。

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