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第8話

 むこうずねを狙った一撃は、あっさりかわされてしまった。それどころか、制裁を加える口実を戸神にみすみす与える結果になった。 「……ぐぅ……っ!」  人差し指と中指がまとまって門をくぐった瞬間、上半身が弓なりに反った。丸出しの下半身に対して、ワイシャツにネクタイ姿のアンバランスさが滑稽、且つ官能的だ。  戸神は、ことさらにスナップを利かせて内壁をこすりあげる。  ぬぷ、ぐちゅり、にゅるにゅると指が出入りするたびに水音が派手に響く。  粘膜が発する淫猥なそれは、通奏低音のように鳴りやむことがない。  鼓膜を犯されるのは肉体をいたぶられるより、ある意味、つらい。指で耳に栓をする、あるいは掌でふさぐ。  そのどちらもできない仁科は、ただひたすら固く目をつぶって堪え忍ぶのみ。  だが、現実逃避に走ることすら許されない。いや、そもそも戸神はいかなる抵抗も許す気はないのだ。  指がVの字に広がった。かと思えば鉤型に曲がって内壁をひっかく。 「……ん、んんー……っ!」  仁科は爪先立ちにずり上がった。躰の内側をじかにまさぐられるのは掛け値なしに生まれて初めてのことで、胃袋がでんぐり返るような不快感はつのるばかりだ。  とはいえ指で嬲られるのは、ほんの小手調べだ。時間割に置き換えれば朝のHRに相当し、先は長い。  しかも皮肉な話だ。苦痛を訴えて腰が揺らめくと、もっと(なか)をくじってほしいとせがんでいるように見えるのだ。事実、 「ノリがいいな。ここでリコーダーを吹く前の準備運動って感じ?」  戸神はリズミカルに美肉(うまじし)を揉みたてる。  やがて可憐な蕾が、いじらしくもほころびた。満を持して、リコーダーが花びらをかき分けにかかった。 「……ぅ、うう、んっ!」  仁科は、いななくようにのけ反った。  頭部管が肉の環を押し分けて突き進む。中部管との継ぎ目が、螺旋を描きながら入口を押し開いていけば汗がどっと噴き出す。

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