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第9話

   号令をかけられたように、たおやかな躰がまっすぐ伸びきった。ペニスが極限まで縮こまって包皮をかぶる。 「ぅ、うううっ……ぐぅ……っ!」  戸神は計画を実行に移すにあたって、綿密にシミュレーションしてきたに違いない。  現に潤滑剤を塗り足しつつリコーダーを挿し入れるさまに迷いはない。中部管の中ほどまで埋め込むと、上出来、というふうに白い歯がこぼれた。  次いで教卓を掃きたてる前髪をひとふさ鷲摑みに引き寄せ、ついばんだ。 「まずはドレミファ。なにごとも基本が大事だよね?」 「……ん、ぐふぅっ!」  が耳から外れる寸前まで眼鏡が跳ねた。リコーダーが柔壁にト音記号を刻んでいきながら回転したせつな、仁科が狂おしく首を横に振ったせいだった。  つぎはヘ音記号、こんどは四分音符……。  筒全体を譜面に見立ててリコーダーが書きつけて回るたびに、生け贄に供せられたかのような肢体がぴくぴくと震えた。  生まれて始めて直面する種類の恐怖に身の毛がよだつ。汗じみたワイシャツが背中に張りつくほど全身が火照ってしょうがないわりには、躰の芯は冷たい。  仁科は本能的に力んだ。リコーダーを五ミリほど押し戻すはしから、一センチ奥へとねじ込まれるというぐあいに、この攻防戦は(はな)から分が悪いが。  凌辱の舞台と化した音楽室とは対照的に、放課後の校庭は活気に満ちている。バッチ来い、と掛け声がこだまして、野球部の部員はシートノックに汗を流しているようだ。  青春だな。そう思うとヒステリックな笑いの発作に襲われる前兆に、口許がひくひくしだす。  丸めて口に押し込まれたハンカチが上顎にへばりつき、歯を食いしばることさえままならないなんて、あんまりじゃないか。 「セオリー的に保険をかけとこうかな」  スマートフォンが視界をよぎり、ぎくりと躰を強ばらせた。あわてて教卓に顔を伏せたものの、一瞬早く撮影音が響いた。

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