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第10話
「さすが最新モデル。きれいに撮れてる」
スマートフォンが眼前に差し出された。ある部分が拡大されるが早いか、弾かれたようにそっぽを向いた。
生白い尻の間から尻尾が生えているさまが、舐めるようなローアングルで捉えられていた。奇妙な形の尻尾──リコーダーは、内奥が蠕動するのに合わせてぶらぶらと揺れて太腿にぶつかる。
だが、うやうやしげに添えられた手が抜け落ちるのを防いでいる。それら、すべてが瞬時に網膜に焼きついた。
これ見よがしにスマートフォンにロックがかけられた。この画像の使い道はよりどりみどり、と暗に匂わせるように。
おれの人生は今日で終わった。そう呟いて、仁科は狂ったように頭を教卓に打ちつけた。
みっともない、なんてザマだ。ディスプレイを介して目の当たりにした自分の姿は、醜悪の一語に尽きた。正視に堪えないがゆえに、なおさら記憶に刻まれた。
「ぅ……うう、ぅう……」
くやし涙が睫毛を濡らし、眼鏡のレンズにしたたる。その間もリコーダーは浅く深く沈んで、ねちっこく存在を誇示する。
猿ぐつわを構成するネクタイが、ゆるんだ。ハンカチがはみ出したとたん、掌が口許にかぶさってきた。
「大声を出して誰かがやってきたら困るのは先生だよ? 俺はたぶん停学どまりだけど、先生は確実に懲戒免職だろうね」
実際、その通りだ。その誰かが事なかれ主義の教師なら、この一件は内々に処理する道を選ぶかもしれない。
しかし生徒であれば厄介だ。学校中に吹聴して回るどころか、見当違いの正義感に燃えるあまり〝こいつが変態教師〟とのキャプションをつけて仁科の顔写真をSNSで拡散するかもしれない。
五月生まれの戸神は十七歳になったばかり。最悪の場合は淫行罪に問われて前科一犯だ。
「叫ばないって約束できるね。そしたら猿ぐつわは外してあげる」
恩着せがましい物言いにムッとした。仁科は一拍おいて、しぶしぶうなずいた。
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