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第24話

 絶望感に瞳が翳り、それでいて身内にくすぶる熱を持て余して腰がもぞつく。 「ぶち込んでほしいって顔に書いてある。おねだりの作法も、おいおい教えてやるよ」  口中をキャンパスになぞらえて絵筆を走らせるように、先端が歯茎の起伏をたどり、口腔全体をかき混ぜる。  その過程で、自分の舌でまさぐってもくすぐったい上顎のデコボコした部分にも、快感の切れっ端がひそんでいることを思い知らされた。  人格が分裂するようだった。  仁科の本来の人格は、口淫という行為じたいにぞっとする。新たに表出した人格は、それは自己暗示にすぎないにしても、戸神に仕えるのはやぶさかではないと考える。  現に裏の筋をねぶりあげるのは命令に従ってのことで、嫌々だった。しかし頬の内側をすぼめて戸神を慈しむさいには、少なからず自分で工夫を凝らしていた。  おまけに、それには副産物があった。背筋がぞくぞくしてペニスが新たな蜜をまとう。  襟髪を摑んで離さない手に力がこもり、どくどくと陽根が脈打つ。おそらく限界が近い。ゴールが見えてきてホッとする反面、残念に思う自分がいる。  ようやく〝戸神〟を悦ばせるコツを摑みかけてきたところなのだ。努力の積み重ねが大切な漢字の書きとりと同様、反復練習に励んで完全にマスターしたい。  先走りの味にしても、当初は独特の苦みに吐き気をもよおすばかりだった。だが、このわたなどの珍味と一緒だ。慣れてしまえばコクがあって意外に美味しい。  何よりつたない舌技に猛りが顕著な反応をみせると、やりがいを感じる。 「射精()る……こぼすなよ。一滴残らず飲み干すのもテストのうちだ」  そう厳命を下すのももどかしげに、頭を抱え込んできたうえで腰を前後に揺する。 「ぅ、あ……ん、んぐぐぐ……!」  フィナーレを飾るとばかりに怒張が荒れ狂うと、息継ぎをすることすらままならない。亀頭が俗に言う喉ちんこを打ち叩いていき、仁科は舌を閃かせて追い返した。  その一撃が、図らずも戸神にトドメを刺す形になった。

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