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第25話
熱液が迸り、喉を直撃する。命令に背けば制裁を加えられるに違いないが、卵の白身のような粘り気があるそれを飲み下すのは、即ち生理的嫌悪感との闘いだった。
そのうえ戸神が離れていけば、つっかい棒を外されたように躰がかしぐ。
仁科は精も根も尽き果ててうずくまり、そのくせ唇にへばりついた残滓に舌鼓を打っていた。
背中を波打たせる仁科を尻目に、戸神は鼻歌交じりに身支度を整えた。そして、うっかりしていたというふうにペロリと舌を出した。
粘着テープが剝がされて、両手がやっと自由になった。急速に血が通いはじめて、指先がむず痒い。
仁科は皺くちゃになったワイシャツをつまんで、眉根を寄せた。いやらしい匂いがぷんぷんしているような恰好で、どうやって職員室に戻れというのだ。
シャワーを浴びたい、と痛切に思う。それよりクレゾールを頭からかぶって躰を清めたい。
「卒業まであと一年九ヶ月、俺流のメソッドできたえてやる。宿題だ。そいつを家に持ち帰って吹き鳴らす練習をしておけ」
戸神は髪を撫でつけながら床に顎をしゃくった。そいつとはリコーダーだ。
「……なぜ、おれなんだ」
仁科は手の甲で口許をぬぐう合間に訊いた。
警備員が夜間に巡回することを除けば、ふだんは人気 のない旧校舎とはいえ、ひょっこり誰かが来ないとも限らない。
学校は一種のムラ社会だ。決定的な場面を目撃されて「仁科とヤッていた」という噂が立てば、戸神にしても無傷ではすまないはず。
そんな危ない橋を渡ってまで事に及ぶほど、ひと回りも年上の男性教諭の何が戸神を惑わし、彼を獣 に変えて、そして蛮行に駆り立てたというのだ。豹変するには、何か特別のきっかけがあったというのか?
授業中、と戸神が平板な口調で切り出した。
「指名されて教科書を音読するときも、板書をノートに書き写してるときも、貴明はちょくちょく俺を盗み見していた」
ひと呼吸おき、口辺に冷笑を漂わせて言葉を継いだ。
「物欲しげな目つきで」
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