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第27話

 唐突に記憶の扉が開く。  男子校に通っていた昔、ある上級生に淡い恋心を抱いていた。しかし生来の臆病さが災いして、告白するなど夢のまた夢。  そもそも彼の目には、地味な下級生の姿など映っていたかどうかも怪しい。結局、何度か挨拶を交わしたことがあるっきりで、その上級生は卒業していった。  戸神の上に、あの上級生の面影が髣髴(ほうふつ)とすることがなかった、とは言い切れない。  青春のほろ苦い一ページになつかしさを覚えて、戸神を熱っぽく見つめてしまったことがあったかもしれない。  戸神にしてみれば迷惑な話で、虫唾が走るがゆえに凶行に及んだのかもしれない。  つまり仁科を徹底的に痛めつけて、この学校から放逐することが目的だった……? 「だけど、やり方が汚い……」  キモい、と蔑まれるならともかく強姦されるほどの非が自分にあるとは思えない。強いて仁科に責任の所在を見いだすならば、戸神の本性を見抜けなかった点か。  相談がある云々という猿芝居に、まんまと騙された自分が愚かだったのだ。  くすくすと嗤い、げらげらと嗤いながら曲がりなりにも身なりを整えた。  もっともワイシャツの下の肉体には、嬲られた痕跡が色濃い。  とりわけ鎖骨の下につけられたキスマークは、若き帝王に忠誠を誓う証しのように鮮やかだった。

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