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インターミッション

 学食の隅のテーブルに、仁科がつくねんと座っている。戸神は柱の陰にさりげなく隠れて、食事風景をしばし観察した。  定食は手つかずのままだ。ときおり伏し目がちに麦茶のコップを口に運ぶものの心ここにあらずとみえて、こぼした。眼鏡のレンズ越しに見え隠れするクマが、色っぽい。  クマができた原因は俺だ、と思うと優越感をくすぐられる。  旧校舎の音楽室で仁科を念入りに可愛がってあげたのは十日前のことで、その後遺症に悩まされている証拠が、あの物憂げな風情だ。  次に招待状が届くのは今日か明日かと、びくびくしているに違いない。  辛辣な生徒の間でも仁科の評判は上々だ。教え方がうまくて上品な物腰はポイントが高くて、ただしカタブツ気味なのが玉に瑕。地味系に見えて正統派の美形で、隠れファンがけっこういる。  そして、これは独自に摑んだとっておきのマル秘情報。  年齢的に童貞だなんてありえないが、女性経験はとぼしいようでペニスは初々しい色をしていた。  だったら男とセックスしたことは? 俗にいうバックヴァージンを奪ってさしあげたのは、不肖・戸神翔真だ。  それから仁科に関する特記事項が、これ。清潔感にあふれた教師の実像は、モラリストとマゾヒストの性質を併せ持つ、という興味深いキャラだ。  隷属することを好む人種は一定の割合で存在する。新学期の最初のHRで、仁科が教壇に立って自己紹介をはじめた瞬間にピンときた。  この物静かな男性教諭の属性は下僕だ。どんな無茶ぶりにも健気に応えてくれる逸材だ──と。  代わりばえのしない毎日にうんざりしていたところに現れた〝有望な生徒〟を放っておく手はない。  一計を案じ、ためしに教育課程の第一段階といけば、想像以上にいい声で啼く。  首尾よく仁科を手に入れた現在(いま)、いちばんの愉しみはマンツーマンで彼を指導することなのだが、については候補がありすぎて悩み中だ。  ぶらぶらと学食を突っ切った。足音を忍ばせて仁科の背後に回りこみ、無邪気な笑顔をこしらえたうえで、肩越しに手元を覗き込む。

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