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第31話
とはいうものの、ちょっとじゃれたくらいのことでフェロモンがだだ洩れになるのは困りものだ。
現に魅せられたように仁科を振り返るなり、生唾を呑み込んだ同級生がいる。
あとで、あいつを軽くシメておこう。頭のなかで今日中にやることリストに追加した。
それから、よけいな仕事を増やしてくれた罰にと、これ見よがしにスマートフォンを操作した。仁科がぎくりと箸を取り落とすと溜飲が下がり、たっぷり冷や汗をかかせてから、この高校の公式ホームページをタッチパネルに表示させた。
「現校長の趣味は居合抜きだってさ。仁科先生の趣味は、確かフルートの演奏じゃなかったっけ」
いびりモードで〝演奏〟に含みをもたせたことは、言うまでもない。
「聴いてみたいなあ。そうだ、学園祭のステージで披露するのは、どう?」
「……下手の横好きで人さまに聴かせるレベルにない」
せかせかと眼鏡を押しあげるさまがツボにはまり、頬の内側を嚙んで噴き出しそうになるのをこらえる。
記憶をたぐる。いわゆる、おそうじフェラをやらせたときの表情は絶品だった。くやしげなのに嬉しげ、切なげなのに楽しげ。
天賦の才(この場合は被虐性)に恵まれている生徒は、実に教えがいがある。
今度は仁科に、どんな集中講座を受けてもらおうか。戸神は、うどんの残りをさらえながら考えた。
自分で後ろをほぐすのを習慣づける方向に持っていく? それとも小さすぎてつまみにくい乳首に錘 をぶら下げて、サイズアップを図るのはどうだろう?
そう、いずれピアッシングをほどこす日に備えて。
と、仁科が手首を搔いた。粘着テープで拘束した痕を搔きこわしてしまったらしく、カサブタができている。
それをヒントに名案が浮かんだ。ある程度の痛みと痒みを比較した場合、痒みのほうが断然堪えがたい。
実際、ドラックストアの棚には即効性を謳ったかゆみ止めの塗り薬がずらりと並んでいる。
それなら、もってこいの〝もの〟がある。
乞う、ご期待。そう呟くと、戸神は割り箸をへし折った。
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