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第37話

「いいかげん認めるんだな。貴明の本質は淫乱のドMだ」  がらりと口調が変わるのにともなって、顔つきが帝王のそれへと一変した。  嘘だ……朱唇がわななく。野蛮な行為に嫌悪感を抱きこそすれ、悦びなど感じるはずがない。そうだ、ペニスが萌したのはたまたまであって、決して痛みが快感にすり替わったわけじゃない。  勃起を司る副交感神経が誤作動を起こしたような変化をもって、マゾヒスト呼ばわりされるとは心外だ。 「う、ぎぃぃいいいっ……!」  殻割り器が三度(みたび)、牙をむいた。猛烈な勢いで乳首をひっぱられると、こらえようもなく絶叫が迸る。  そのくせペニスは妖しい雫をにじませるありさまで、戸神が小気味よさげに笑った。  仁科は調理台に向き直った。ペニスを挟むように太腿をぴたりとくっつけて、精いっぱいのカムフラージュをほどこす。  しかし力ずくで反転させられて、膝の間に膝頭をこじ入れられると、もはや足を閉じることさえかなわない。 「きみも、かわいい教え子のひとりだ。軽蔑させないでくれ……っう!」  戸神は、もちろん聞く耳を持たない。殻割り器が猛威をふるうにつれて、可憐な粒はいよいよ鬱血して、象牙でできたトルソーにルビィをはめ込んだかのごとく際立つ。  と、殻割り器が投げ捨てられた。戸神は後ろ手を組むと、鑑定士のような鋭い視線を乳首にそそぐ。ひとしきり矯めつすがめつしたあとで、満足がいったように白い歯をこぼした。  それからワイシャツの前身頃をはねのけた。桜色に(なま)めいた胸元に顔を寄せると、 「痛いの痛いの飛んでけぇ」  唱えながら乳首をかじった。 「さわるな、やめ、ろ……んっ!」 「馬鹿のひとつ覚えだな。けど、こっちは」  ぐい、とペニスを摑み取られた。 「だらだら(よだれ)を垂らして正直だ」  搾乳するような指づかいで蜜を塗り広げていく。  仁科は涙目で戸神を睨み返した。オアシスと同じ原理だ。責め苛まれている最中にインターバルをおく形で快感を与えられると、それは小匙一杯程度のものにすぎなくても、舌が痺れるほど感じられるのだ。  即ち、疼痛と快さの境界線を曖昧にするところに戸神の狙いがあった。

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