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第41話

 のろのろと調理台に腰かけた。尻でいざって後ろにずれていき、膝の裏が天板の(へり)にぶつかったところで躰をひねると、ワイシャツの裾が乱れてペニスがちらつく。  まったく、なんてザマだ。  スマートフォンのタッチパネルを眺めやれば、RECの表示が点りっぱなしだ。戸神のコレクションを増やすのに協力することになるのか。そう思うと胸がむかむかする反面、ほんの一瞬、カメラ目線を向けていた。  ところで調理実習の時間は、通常は六人でひと組の班単位で課題の料理をつくる。それに見合って、まな板などを置くスペースはゆったりしている。  いいかえれば仁科を〝料理〟するに、お誂え向きの場所だ。  屠殺場に引きずり出される気分で、仁科はしゃがんだ。直後、固まった。 〝四つん這いになって足を開く〟という次の段階はハードルが高い。鼓動が速まる。だからといって「できない」の一点張りで押し通すのは、自殺行為に等しい。  ぎくしゃくと腹這いに姿勢を変えていきはじめた矢先、床が踏み鳴らされた。  戸神が苛立っている様子がひしひしと伝わってきて、とっさに体育座りに手足を縮こめた。  が足の付け根に密着すれば、くやし涙が浮かぶ。唇を嚙みしめ、それでいて乳首と尻たぶの痛みがぶり返すと、ムラムラするものがあるようだ。 「俺、駆け引きっぽい姑息なやり方は嫌いなんだ」    口辺に笑みを漂わせながら、戸神が(かんぬき)をかけてあるかのように、ぴたりと閉じ合わせた膝に触れてきた。  ひと撫で、ふた撫でされたとたん、びっしりと鳥肌が立った。だが、おぞましいゆえとは一概に言い切れない。  仁科はガス台寄りに少し移動した。酷薄な影が仰ぎ見る顔をよぎる。冷徹な視線が全身を這いまわる。  本格的に腕をふるうにあたって、戸神は今いちど検討しているのだろう。  仁科という素材の旨みを最大限に引き出すにふさわしいレシピは、なんだ──と。  膝を離れた指が、今度は乳嘴(にゅうし)に矛先を向けた。そして、そっと撫であげる。 〝北風と太陽〟の例に倣って優しく接するほうが得るものは大きい、と計算したように。

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