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第44話

   すりこぎがにわかに輝きを放って見えはじめたのを合図に、わずかにだが蕾がほころぶ。  白黒映画の中で唯一、彩色がほどこされた場面が観客に強烈なインパクトを与えるように、すりこぎから片時も目が離せない。 「ガン見してるな。実はすりこぎマニアだったりするとか、か」  皮肉たっぷりにそう言われたうえに、すりこぎで眼鏡を持ち上げられた。  仁科は、弾かれたように顔を逸らした。それでいて唇を嚙みしめるはしから、無意識のうちに舌なめずりをしてしまう。  禁断の木の実をかじった記憶が仁科を惑わす。  内壁にひそむ性感帯という金脈の在り処。あの一点に狙いを定めて屹立に突きしごかれた経験を通じて、苦痛と悦楽は表裏一体だと学んだ。  すりこぎは生身の陽根と違って萎えることがない。太くて硬いあれで内奥をかき混ぜられたら、血の海の中をのた打ち回ることになるかもしれない。  事によると……めくるめく快感に我を忘れて、もっと、もっとと腰を振りたててしまうかもしれない……。  接着剤で塗り固めたように、ぴたりと閉じ合わさった両の膝のあいだに隙間が生じた。  機械仕かけのように細腰(さいよう)が浮きあがるにつれて、ワイシャツの裾が扇形に広がっていく。秘部が丸見えになると、ようやく腰の動きが止まった。  肌が、しっとりと艶めく。和毛(にこげ)が可憐な影を落とす内腿には、特に真珠の光沢があった。  息を吸って吐くのにあわせて、ギャザーがすぼんでは開く。たいがいの男は、我を忘れて仁科にむしゃぶりついていく場面だ。  ところが、くっきりした二重瞼の目に欲望の色は認められない。戸神は、小癪なほど落ち着き払っていた。  事実、ふぐりの皺の寄りぐあいさえ研究対象であるというふうに、しげしげと後孔を見つめる。  そして仁科に居たたまれない思いをたっぷり味わわせたあとで、ペニスを指で弾いた。 「生徒の前でチンポを勃たせるって、ありえないだろ。先生に憧れてる女子がこんな恰好を見たら幻滅してトラウマものだ」 「責任の一端は、きみにある……!」 「そういうのを先生、責任転嫁っていうんだよ? 勃たせろだなんて、俺はひとっことも言っていない」

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