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第49話

 銜えろよがしに尖塔が口許をかすめ、仁科はしゃにむに顔を引きはがした。  次回はフェラチオの特訓を行う、と予告してあったのを盾にとって、戸神は意地でも仁科にしゃぶらせる気でいるのだ。  担任としては、教え子の有言実行ぶりを褒めてあげるべきなのか。次の全国模試では上位百位以内をめざす、といった健全な方向に律儀さを発揮してほしいのだが。  と、ため息が聞こえた。フェラチオの基礎に関しては音楽室で手ほどきをした。また口のあけ方から教えなきゃ、わからないのか。  暗に物覚えの悪さをなじる、それ。  両手が再び後ろ頭にあてがわれて、股ぐらに顔が埋まる。戸神は今度は手心を加える気はさらさらない様子で、穂先が朱唇の結び目を割りほぐしにかかる。  無駄な抵抗と知りつつも、仁科は歯を食いしばって防御を固めた。だが亀頭が唇のカーブに沿って行ったり来たりすれば、なぜか生唾が湧く。  頑なに唇を引き結び、戸神にも、彼に服従したがる自分自身にも抗う。  その直前まで深奥で荒れ狂っていた猛りを口腔にねじ込まれて、舐めて清めるように強いられた。  しかも戸神が達するまで舌を酷使させられたうえに、口中に放たれたものを飲み干すように仕向けられた。あの、くやし涙にかき暮れた一件を忘れたのか?  自分のも、精液の味も、知る前に戻りたいと(こいねが)ってやまない。  喉にこびりついた残滓が毒素を出して内臓が膿みただれていくようだった過日に思いを馳せると、仁科は努めて眉間に険しい皺を刻んだ。  しょっぱくて苦い白濁を今ひとたび飲み下したが最後、それは血肉に溶け込んで、戸神により忠実なロボットへと自分を変えるに違いない。  筒先が、しきりに唇の合わせ目をつついてくる。業を煮やした戸神が腕ずくで口淫を開始させるのは時間の問題だ。  そのさい攻撃の的となるものは乳首だろうかペニスだろうか、それとも花芯か……。  淡い笑みが浮かび、仁科は眼鏡が弾け飛ぶ勢いでかぶりを振った。 「……んん、んんん……っ!」   こめかみを挟みつけられたうえで、股間に顔を持っていかれた。

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