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第50話

 若草が頬を掃く。ツルが外れて眼鏡がぶら下がり、まともに息もできない。  仁科は、顔の両脇にそびえ立つ太腿に手をつっぱった。ありったけの力で戸神を押しやれば、 「……ぐっ、ぅ、ふ……っ!」  乳首を一回転半もひねくられて、スクリュー状の皺が寄った。悲鳴が下生えにくぐもり、それでいてペニスはぐんと嵩を増してタコ糸にじゃれかかる。  たまらず口を開くと、とたんに砲身が押し入ってきた。歯列という防衛線を突破して、ずいずいと舌を(なら)す。 「アナクロい言い方をすれば『おかしな料簡を起こせばただじゃおかないぞ』。貴明も俺のに嚙みつけば……」  スマートフォンを手にすると、軽やかにタップしてみせる。  切り札を出されては意地を張り通せない。眼鏡をかけなおした。おずおずと陽根に手を添えて、口腔と鼻腔を結ぶトンネルに押し入ってくる(いただき)の角度を調節した。  そして意を決して傘に舌を這わせた。ムースのようになめらかな舌ざわりに勇気づけられた直後、旧校舎に誰かが入ってきた気配があった。  ぎょっとして、危うく戸神をかじってしまいかけた。仁科はからくも歯列をゆるめると、恐るおそる耳をそばだてた。  来るな、来ないでくれ。念じつづけるうちに、昇降口でこだましていた足音は校庭のほうへと遠ざかっていき、あたりはしんと静まり返った。  代わって、せせら笑いが耳朶を打つ。 「チビりそうなビビりっぷりだったな。本気でヤバいってときは、俺が防波堤になって貴明がパンツを穿く時間くらい稼いでやるから安心しな」 「心づかい感謝する」  皮肉たっぷりにそう答えた。仁科は屹立をあらためて捧げ持つと、進んで仕切り直しといく。  また誰か来ないとも限らないのだから、厄介事はさっさとすませてしまうのが正解だ。  それでいて心の触れ幅が大きい。後ろは手つかずのままで現地解散といけば、不完全燃焼に終わる。それを、いささか残念だと思う自分がいて戸惑う。  もやもやするものを振り払いたくて、思い切って根元まで口に含む。  瞬く間にみなぎって喉を突いてくるそれに吐き気をもよおさないのは、免疫ができたということなのか。

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