52 / 99

第52話

 なつかしいな、と場違いなことを考える。その昔、仁科が当時在籍していたクラスで真っ先にバタフライをマスターしたのは十一年前のことで、そのことひとつとっても戸神との年齢の差を感じる。  頭をひと振りして、裏の筋を舌でつつく。記憶によればこの線上に戸神が悦ぶポイントがあり、微かな起伏を丹念に舐めあげる。  その間にも暮れなずむ空のもと、三々五々と下校する生徒の笑い声が途切れ途切れに聞こえてくる。  それは、刻々とタイムリミットが迫りつつあることを意味する。  もしも施錠を確かめにきた当番の教師と鉢合わせをすることがあれば、万事休す。にわかに気が急いて、仁科は学生ズボンの前立てを押し分けると、三分の二ほど頬張った。  定期試験の問題を作成するさいは、配点に注意する。  それの応用で根元、中ほど、亀頭というぐあいに〝戸神〟をいくつかのゾーンに分けたうえで順番にしゃぶっていくのが効率的だろうか。  猛りがぐんと体積を増して喉をふさがれると、いやでも劣等感を刺激される。  高校生の分際で桁外れに立派なイチモツをぶら下げて、それを根拠に担任を辱める権利があるという結論に達したのか?  ちらりと股間を見やる。タコ糸にくびられたペニスは慎ましやかにそこに在るが、とめどもなく蜜をにじませるさまが、とてつもなくいやらしい。  頬が火照り、そのぶん躰の芯も熱くなる。  ともあれ身ぶりによるレクチャーに従い、唇をすぼめがちに舌をつかうと、今さらのように胃が痙攣しはじめた。  あながち嘔吐感ゆえとはいえないもので皮膚が粟立ち、二の腕をさすると、その振動が乳首にも下腹部にも響いてペニスがしなう。 「ぅ、っう、う……」 「くっきり痕がついて芸術的だな」  戸神がタコ糸をずらして噴き出し、仁科は、そんな教え子を()めあげた。  鋭い視線をそそがれて心臓が跳ねた。顔をうつむけ、ぎこちなく頭を上げ下げするたびに、ため息がこぼれる。  女性とですらオーラルセックスの経験がないというのに、よりによって教え子に奉仕する羽目に陥るだなんて、未だに現実味にとぼしい。

ともだちにシェアしよう!