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第53話

 ああ、いやだ。ああ、気持ち悪い。ときたらエラが張っていて、上顎の敏感な箇所を絶妙の力加減で刺激してくる。  大きいからといって、ずんぐりしているわけではなくて綺麗な流線型を描く。それに十七歳やそこらで使い込まれている感がある。  国語の成績がいいだけあって、戸神は卑語の類いも語彙が豊富。教科を担当する立場としては、平常点に加算してあげてもいいくらいだ。  戯れに下生えを指で()いてみた。まばらな生えぐあいが十代の証しか。  新米の教師だったころにようやく童貞を卒業した仁科にひきかえ、その気になれば入れ食いまちがいなしの戸神はローティーンのうちに筆おろしをすませたのだろう。  以来、女性──あるいは男性をとっかえひっかえ毒牙にかけて、淫技に磨きをかけてきたに違いない。 「ふぅ……ぐ……ん、ふぅ……」   くびれが上顎にあたるふうに、さりげなく硬直の向きを変えた。  役得か? 断じて違う。あえて言うなら、こうしたほうがねぶりやすいからだ。  いかんせんビギナーの哀しさで、どうしても舌づかいが単調になる。すると戸神は、世話が焼ける、と匂わすふうな嘆息を洩らした。  そして自主性に任せていたのが一転して、事細かに指示を与えてきはじめた。  カリを強めに吸う、(あな)を舌で弾く、タマを撫でころがす、もっと緩急をつけろ……等々。  注文がうるさくて、なおさら仁科はまごついた。第一、口淫に挑むのは非道にすぎる洗礼を受けたあのとき以来で、テクニックを求めることじたい無理な相談だ。  おまけにいちいち○✕をつけるようにつねってくるから乳首は真っ赤で、なのにペニスは着々と蜜を蓄えるありさまで、タコ糸が食い込む。 「ん……はぁ……」  口腔の粘膜全体がローリングするような動きを取り入れろ、とは無茶を言う。えぐみの強い雫がにじめば覿面にむせて、叱責するように首筋を軽くはたかれると、自分がどうしようもない劣等生に思えて萎縮する。  一生懸命やっているのだ、努力は買ってほしい。

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