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第54話

 ただでさえ仁王立ちに立ちはだかる教え子の股間にむしゃぶりつくという構図は、自分のみじめな境遇が強調されて、つらい。  偶然を装って切っ先で頬をぺちんとやられても、これが愛情に根ざした行為なら、それもうれしいと思えるのか。  仁科は、怨ずる眼差しをを戸神に向けた。舌も顎もだるいし、口の周りはべとべとだ。膝立ちの姿勢をとりつづけているために、背中が張ってつらい。 「自分で工夫するって向上心に欠けるし、不器用なんだな、貴明は。合格点めざして家でフェラの予習してこいよ」 「教師を呼び捨てにするな、と何度言えばわかる!」  戸神の答えは、こうだ。前歯をへし折る勢いで猛りをねじ込んできた。 「……ぅ、む、ぐぅうう」  確かに脅迫材料は画像フォルダによりどりみどりだ。ワセリンを用いた〝課題〟をやってこなかった、という負い目もある。  だからといって何を陽根に見立てて予習しろというのだ。オーソドックスなところでバナナか?  独り暮らしのマンションの一室。翌日の授業の下準備もそっちのけで、夜の夜中にバナナをしゃぶりたてる男性教諭の姿など、滑稽なのを通り越して不気味きわまりない。  ヒステリックな笑いの発作に喉がひくつく。それと連動して咆哮するように幹がひと跳ねすると、息継ぎするのもままならない。  戸神がむっつりと押し黙ると、なおさら舌さばきはぎこちなくなり、駄馬に鞭をくれるように襟髪を引っぱられる回数が増える。  汗で眼鏡がすべり、だが仁科にも意地がある。上達した、と言わせたい一心で喉まで招き入れると、えずいた。 「もういい。下手すぎてシラける」  抜け出ていく雄渾を、さもしげに舌が追う。 「しょうがないなあ。教え子のよしみで、もうちょいつき合ってやるよ」    戸神は恩着せがましく、且つ、もったいをつけて猛りでいまいちど朱唇を割った。 「ん、……んん」  ねぶるのに抵抗を感じなくなってきたのは先日、を飲まされて体質が変化したせいだ。それなら納得がいく、と仁科はうなずいた。  だが、ついつい内腿をすり合わせてしまうことには説明がつかない。そうすると切なげに揺れ惑うペニスをなだめるどころか、タコ糸による緊縛の度合いが強まって、ペニス全体がグロテスクなまでにくびれてしまうのだから。

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