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第55話
「……ふ、ぁ、んん、ん」
謎が解けた。タコ糸の繊維の粗さが要因だ。タコ糸がすれて痛痒いのは即ち快感だ、と脳が誤った判断を下すのだ。
ペニスをしごけば……もとい搔けばすっきりするだろう。しかし股間をいじる正当な理由があっても、戸神はそれを仁科をいびるための口実に利用する。
煩悶するうちにもペニスはますます蜜をまとい、そのとき戸神が欠伸をした。
彼が目をつぶった隙をついて、仁科は横座りに足をくずした。ワイシャツの身頃が垂れ下がり、その陰で膝頭を下腹部に引きつける。
窮屈な体勢で、しかも戸神がよそ見をしたときに限る、という条件つきだが、これで必要に応じて股間をさわることができる。
そう思うと気が休まる一方で、自嘲の嗤いに頬がゆがむ。
背に腹は代えられないとはいえ、教え子の目を盗んでペニスを搔く算段をつけるとは世も末だ。
その教え子はポーカーフェイスを保ち、呼吸もいたって正常だ。
舌づかいが拙いことをさっぴいても、顔を赤らめるくらいすれば可愛げがあるものを、まったく張り合いがない。
タコ糸に扼 されているにもかかわらず、縄目から肉がはみ出すようなこちらのペニスとは大違いだ。
仁科はため息交じりにエキスをすすると、それとなく膝を前後に動かした。
ぬちゃりと蜜が糸を引けばドキドキしながら戸神の様子を窺い、努めて頭を空っぽにして口淫に没頭する。
そうだ、一秒でも早く〝課外授業〟を終わらせて、戸神にもてあそばれた痕跡を消して、この場から立ち去ろう。
新校舎に移転する以前の遺物のように、黒板に消え残る〝パンケーキの作り方〟がうら悲しさを醸し出す調理室に、猥 りがわしい水音がこだまする。
殊に巾着のように唇をすぼめて舐めあやすピッチを上げれば、ぐぽ、ぬぽ、と高まる。
それにしても戸神は落ち着き払っている。高校生離れした持久力に空恐ろしいものを感じ、だが、ふと思う。
また、この凶器をえぐりこまれたら今回は性の深淵を覗き込むことになるかもしれない。
もしかすると、がっついてしまうかもしれない……。
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