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第56話
ともあれ努力の甲斐あって、陽根は口に収まりきらないまでにそそり立った。
仁科が戸神の立場なら、進境著しいと褒める場面だが、当の生徒はスマートフォンでゲームをやりだすありさまだ。
仁科は、自分がおあずけを食らった犬のように思えてきた。昂ぶりをやわやわと吸うのにまぎらせて、ぼやく。
昨今では犬のほうが、もっと大事にされている。お手を憶えたトイレを憶えたと言って褒めてもらえる犬が妬ましく思えるのは、戸神がいたわりの言葉ひとつかけてくれないせいだ。
ちぢれ毛が歯に挟まっても、それさえそのままに舌を蠢かしつづけているのだから、乳首を撫でるくらいのことはしてくれてもバチがあたらない。
そういえば乳首を開発すると豪語したわりには、尻切れトンボの恰好だ。
この場面における主人公の心情を読み解きなさい、といった設問に対して、字数制限いっぱいに解答欄を埋めるのが常の戸神は、実は飽きっぽい性格だったのか。
頬は時にへこみ、時に頬袋に木の実を詰め込んだリスのように膨らむ。
下手くそと罵るのでもかまわないから、何か言ってほしい。
視線でそう懇願すると、いかにも面倒くさげに頬をつままれた。そこに浮き出した半円形のフォルムに沿って、指の腹が行ったり来たりする。
ざわり、と鳥肌が立った。仁科は首を横に振って指を退けた。
ただし嫌悪感をかき立てられて抗ったわけではない。むしろ、逆だ。快美感に頬の内側が痺れて、うろたえたのだ。
と、スマートフォンが目の前にかざされた。
仁科はパッと目を伏せた……はずなのだが、最新版の動画にどうしようもなく視線が吸い寄せられる。
おれは……せかせかと眼鏡に触れた。
おれは、ほろ酔い機嫌のようなとろりとした目つきで怒張をぱくついていたのか。
ハモニカを吹くように唇を横にすべらせてみるわ、陰嚢を食んでみるわ、ちろちとろと舌を這わせてみるわと、いっぱしのテクニシャンきどりじゃないか。はは、お笑いだ。
とりわけ己の浅ましさを如実に物語っていて総毛立つ、ひとコマは。
ペニスを膝頭にすりつけたうえで、こっそりとだが腰を揺らめかすさまを余すところなく捉えたものだ。
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