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第57話

   和毛(にこげ)の部分が拡大された。  よじれて束になっている箇所があるあたり、いったいどれだけの量の蜜がしたたり落ちたのか。 「学校案内のパンフに使えそうな素晴らしい()ヅラだろ? 宣伝文句は、そうだな……」    戸神は考え込むふうに、ひと呼吸おいた。 「〝本校は性教育のジャンルにも力を入れており、えりすぐりの男性教諭の指導のもと、優れた人材を育成しています〟」    厳しげな声色をつかって滔々とまくしたてると、電卓をたたく仕種を見せる。 「入学希望者が殺到で競争率が二十倍とかに跳ねあがったりして。特にうちみたいな私立は、少子化の影響で学校経営が厳しいもんな。学校への貢献度大で出世できるかもよ」    笑顔でそう締めくくると、自身に添わせる形で親指が口唇を押し開く。   仁科は、さすがに柳眉を逆立てた。猛りをあえて銜えなおすと、前歯にそろそろと力を込めていった。  しかし本当に嚙みつくまぎわにブレーキがかかった。戸神が使い物にならなくなったら痛手をこうむるのは、こちらだぞ?  その〝こちら〟とは、蕾のことだ。そこが、あえかにほころぶ気配に目をしばたたいた。  この雄々しくいきり立った男の武器で、奥園を踏み荒らしてほしいと願っているのか?   ありえない、と苦笑を漏らしながらも嚙みつくのはやめにした。  戸神に楯突けば命取りになる。(かつ)えを満たしてくれるものを花芯が欲しているような錯覚を覚えるのは、ただ単にタコ糸に阻まれて奔流が行き場を失い、鈴口がただれたように熱いせいだ。  あらためて穂先を吸いしだく。放つときが十ならば、現在の興奮度を推し量る。  戸神は涼しい顔でスマートフォンをいじり、その胸中を推し量るのは難しいが、いくぶん小鼻がふくらんできた。シャツの衿をばたつかせて胸元に風を送るのは、暑いためばかりではないだろう。  といっても〝俺が先生の専属講師〟とうそぶいて(はばか)らない生徒が若さを露呈したのは、ほんの一瞬のことだ。  仁科がしゃぶりたがるから渋々、という(てい)で栗色の髪に十指をもぐりこませる。

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