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第68話

 たとえ嫌々であっても、何かに取り組んでいる間は少しは気がまぎれる。  陰門どころか、内奥全体が松明(たいまつ)を突っ込まれてかき混ぜられているように熱い。熱を冷ましてくれるものであれば、ペニスを(かたど)った氷柱でも歓迎だ。  そういえば、と学生ズボンの中心を盗み見る。  口淫を途中で切り上げる形になったわけだが、俗にやりたい盛りの年ごろの身で、性欲を自在にコントロールしてのける根性には恐れ入る。  目下の急務は自分好みに仁科を改造することで、それをやり遂げるためなら多少の犠牲を払うのは当然、というのか。  実際、仁科が『ケツマンコ』と繰り返すたびにもっともらしい顔で頷くあたり、全能感に酔いしれているのだろう。  それが伝染したように、台詞回しに熱が入る。 「『ケツマンコに指を突っ込んでほじくり返してください』……」 「童貞なら勃つレベルに上達したかな」  曲がりなりにも及第点をもらえるころには、喉はからからになっていた。  仁科は、体育座りに立てた膝に額を押し当てた。 『ケツマンコ』が頭の中で反響すれば、忸怩(じくじ)たる思いに表情が曇る。その反面、ある種のカタルシスを味わって頬が紅潮する。  心残りもあって、いくぶん足を開く。  わざとトチって戸神を苛立たせる方向に持っていけば、もっと突飛なやり方でいたぶってもらえたかもしれない……。  爆発的な痒みにハッと我に返り、眼鏡を押しあげた。  アンビバレンスな心理状態が影響してか、ペニスはいちだんと張りつめて網目から肉がはみ出す。タコ糸はじっとりと湿って、ちょうちょむすびに結わえ終えたあとの両端は、だらりと垂れ下がっていた。  前例に鑑みて、ペニスに目をつけられたら鈴口に栓をされる公算が大きい。仁科はあらためて両足を胸に引きつけると、腕と膝の間から戸神の様子を窺った。  こちらは精一杯がんばった。努力を認めて、とろろをかき落としてくれてもバチはあたらない。  ところが冷蔵庫を背景にたたずむ人影は、微動だにしない。  また、おかしな魂胆があるのだろうか。ドキドキする胸を押さえたせつな、制服のシャツが波打った。  それは未完成な造りの肩が震えたためで、瞬く間に全身に広がっていく。  戸神が噴き出した。笑いこけながら、まくしたてた。

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