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第76話

 返す言葉もない。仁科は小さくうなずいた。しかし、それこそ責任転嫁だとなじられそうだが、元を糺せば戸神のせいだ。  そう、無理やりつれて行かれた扉の向こうには、官能に満ち充ちた色鮮やかな世界が広がる。  抗しがたい魅力にあふれた空間をたゆたうのは、満更じゃない。実際、嘲弄されながら内奥をこねたてられるのは、なんて気持ちがいいのだろう。 「先生は、けっこうお人好しだよな。カモられやすいタイプだから、投資話には気をつけなよ」  S・T──戸神翔真のイニシャルが内壁に綴られるにおよんでは、こんな白昼夢を見る。  自分は(いち)にかけられ、戸神に競り落とされたのだ。では主人に忠義を尽くすのが性奴の務めだ──。  屈辱感に根ざす快感に理性を蝕まれる。花鞘はとろ火で煮込んだスネ肉のように蕩け、きたるべき瞬間に備えてリハーサルを行なうかのごとく、濃艶に収縮する。  悩ましいため息が、たてつづけにこぼれる。リーダーシップをとるのは中指、その補佐を務める人差し指と薬指が、かわりばんこに種子を薙いでいく。ああ、射精()る……。  すべての指が、いっぺんに抜き取られた。 「あ……、なんで……っ!」 「搔き疲れた。このへんでお待ちかねのやつにバトンタッチだ」  バトンタッチ……。鸚鵡返(おうむ)しに呟くと喉が鳴り、内壁が(しな)を作るようにうねる。  満を持して登場するものとは、待望久しいあれのことだろうか?  戸神が調理台に尻を引っかけた。そして足下にひざまずくよう顎をしゃくった。  仁科が膝をたためば、しずしずと学生ズボンのファスナーが下ろされていく。  徐々に姿を現す膨らみに、物欲しげな視線がそそがれるのを意識したうえで、戸神がボクサーブリーフをわずかにずり下ろした。 「つけ方くらいは、わかるよな」  生徒手帳に挟まれていたものが膝の上に投げ落とされた。ミシン目で切り離されたそれは、コンドームだ。 「こういうものを持ち歩くとは、避妊の大切さも性感染症にかかった場合の怖さもちゃんと理解しているんだな。立派な心がけだ」  仁科は、うわずりがちな声で精いっぱい皮肉った。

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