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第84話

「あ、ん、ぁ、ああああっ!」 「うわ、キーンときた。鼓膜が破れてたら、これも災害共済給付制度の適用ケースだったかもな」    飛行機がエアポケットに入ったときのように音がこもる。そう言いたげに、しかめっ面で耳の穴をほじくると、それと同じ動きでうがちながら言葉を継ぐ。 「『わたくしこと二年A組の担任の仁科貴明は、生徒のチンポを下の口で賞味中』」って学校中に宣伝したいわけ? だったら手始めに俺の友だち連中にLIVE映像とか送ってみる?」    スマートフォンに顎をしゃくるさまに大急ぎでかぶりを振れば、掌で口をふさがれた。  あえぎ声を封じられると、かえって快感が増幅される。すさまじいまでに五感が冴え渡り、亀頭と幹の境目のあえかな段差すらも、じかに手で触れているようにようにはっきりとわかる。  巧まずして粘膜が砲身にまといつき、戸神が珍しくあわてたそぶりを見せた。 「ヤバ……もっていかれるとこだった。思いきり搔いてあげたくてがんばってるのに邪魔するなんて、ひどくない?」  戸神は、むくれるそばからシラけたというふうに一切の動きを止めた。  折りしも痒みが強まった。仁科は天板の縁を摑みなおすと、努めて腰をもたげた。ぎこちないなりに抜き差しを刻んで返す。 「んん、ふ、んんん……」  穂先を思い通りの位置にいざなえるこれは、渡りに船だ。シナプスが倍々方式に増えていくように全身の到る所で悦びが芽吹き、やがて(さね)の一点に収斂(しゅうれん)される。  そこを戸神の公認の元に刺激できるなんて、我慢した甲斐があった。 「勃ちっぱなしの濡れっぱなしで、ひくし。高潔キャラの仁科先生が、ひと皮剝けばド淫乱……人間不信に陥りそ」 「っ、う、あああ―……っ!」  がりっと鈴口をひっかかれた。馬乳酒を思わせる白っぽい雫が、ぬらぬらとしみ出すのにともなってタコ糸と睦み合う。  その雫はさらに谷間を潤し、律動がなめらかさを増す。 「ん、ぅく……ぅ、ううううう……」  深い深い領域まで侵蝕されて、精神(こころ)と肉体が乖離する。情欲の権化に成り果てる瞬間が訪れる。

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