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第85話
仁科は、いつしか憑かれたように腰を打ち振っていた。緩急をつけて攻め入ってくる戸神と互角に渡り合うどころか、彼が思わずたじたじとなるほど、あられもなく。
だって……うっすらと朱唇が開く。空隙 を満たしてくれるものを欲して欲して、焦がれ死にする寸前にようやくありついたのだ。
太くて硬くて、そのうえ、ずば抜けた持久力を誇る極上のイチモツに。
半開きになったままの唇から、よがり声がこぼれつづける。脳髄は痺れたようになっていて、もはや淫楽の虜にふさわしくふるまうのみ。
全身がどろどろに溶けていったすえに、花芯のみの存在と化すようななかで、仁科は、烈々と自分を貪り食らう覇者を見つめた。
ふと現実にピントが合った。
そうだ、と思う。朝のHRで連絡事項を伝えるさいも、定期試験で監督官を務めるときも、自分は他の生徒に対するより数秒長く戸神に視線をそそぎがちだ。
なぜなら戸神が欠伸を嚙み殺したり答案用紙にペンを走らせるさまを盗み見るたびに、ほろ苦い初恋の思い出が甦る。
男子校に通っていたころに秘めやかな想いを寄せていた先輩と、どことなく面立ちが似ている教え子。
その彼の〝玩具〟に堕するに、やぶさかじゃない。
そうだ、恋に臆病だった昔のツケが回ってきたのだ。
獲物を自分の鋳型 にはめて教育することを好む戸神。戸神に、くだんの先輩の面影を見いだして密かに胸をときめかせた報いに懲らしめられることを意識下で願っていた、おれ。
利害は一致していて、ある意味、割れ鍋に綴じ蓋だ……。
相貌が欲情にけぶり、内 がひときわ豊潤さを増す。にぎやかにさえずり、戸神にしなだれかかって陥落を迫る。
蜜にまみれて、油を塗ったようにペニスがぎらつくさまは、薄暗い調理室の中でいちだんと鮮やかだ。
粘膜と怒張が淫らな調べを奏で、戸神が、ふくれっ面をこしらえた。
「搔け搔けって人をこき使っといて別な方向で愉しんでない? 俺、さすがに怒るよ?」
戸神がネクタイを拾い上げた。丸めるとともに、自身に沿わせて花芯に指を突き入れた。
「っ! ん、ぐぐぐうぅっ……!」
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