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第86話

 嬌声が響きわたるまぎわにネクタイが口に押し込まれた。すかさず先端が核をブラッシングするとともに、指がくいくいと動く。  柔肉がいじらしげに指までぱくつきだすと、 「食いしん坊な、孔」  せせら笑いを耳にそそぎ込むあたりが、戸神の真骨頂といえた。  仁科はネクタイを吐き出した。喉がいがらっぽくて咳き込むたびに花びらがすぼみ、主導権を握ろうとしているようにも見えるさまが癇にさわった様子だ。  めりめりと入口が押し広げられる。 「ぐっ、あ、ぅう……っ!」  ほっそりした肢体が、極限まで反り返った。猛りで深奥を、指で浅みをかき混ぜられるという二点攻めに、瞼の裏でぱちぱちと火花が散る。  と、強引にうつむかされた。とたんに仁科は弾かれたように顔を背けた。  雄蕊(ゆうずい)もろとも指が忙しなく出たり入ったりする模様が、いつの間にか足下に置かれていたスマートフォンのタッチパネルに映し出されていたのだ。 「むしゃむしゃガツガツって感じで、えぐい眺めだろ? ディスクに落としてあげる。参考書にもってこいだよな」  鹿爪らしげに囁きかけてくるかたわら、頭に手を添えてきて押し下げる。泣く泣く今いちどタッチパネルに目を凝らすと、酩酊へといざなわれた。  は熟しきって腐れる寸前のザクロみたいだ、と思う。あれはあくまで出来心だが、後ろに指を入れてみた夜に思いを馳せる。あのときはベビーオイルを塗ってもきつきつで、第一関節まで沈めるのがやっとだった……。  今は見違えるほどだ。蛇がウサギを一羽丸呑みにするように、指とひとまとめに大きなものを頬張って、なんて、いやらしい……。  舌が、ちろちろと朱唇を舐め回す。タッチパネルを見やりながらだと菊座がいっそう笑み割れ、しまいには他の指まで呑み込みかねないありさまだ。 「ハメ撮りをガン見して、どスケベ」 「っ……ぅ、ああ!」  えぐり込まれて、あやして返す。そこで後ればせながら違和感を覚えた。  そうだ、手折られたうえに〝男の味〟を教え込まれたときとは、微妙に感触が異なる。

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