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第87話

 戸神が今回はコンドームを装着したのは、とろろにかぶれないための用心だ。  だが、わずか〇・〇二ミリ程度の厚さにすぎないとはいえ抜き身ですりたてられた場合に較べると、もどかしさがつきまとう。  言いかえれば薫陶の賜物だ。はわずかな違いを判別しうるまでにこなれてきた、ということだ。  もっとも、もどかしいのもオツなもの。なぜって? 長々と戸神を味わっていられるじゃないか。  こちらがうっかり爆ぜてしまう可能性についても心配ご無用。奔流が轟々と打ち寄せてきても、タコ糸に堰き止められることの繰り返し。  ただし、それも善し悪しだ。何度もきわめそこねているうちに、精液が煮えたぎりかねないほど下腹部が熱せられてきた。  イキたい、射精()したい、イキたい、射精したい……。呂律が回らない状態で、のべつまくなしに呟く。  無意識のうちに股間に手を伸ばし、タコ糸を引きちぎりにかかると、覿面にひっくり返りそうになった。 「俺ので搔いてもらうの好きか?」  抱きとめられて、学生ズボンに包まれた腰に右足を巻きつけなおす。そこにイチモツが咆哮をあげて攻め込んできた。襞が嬉々としてまといつくと、なおさらタコ糸にぎりぎりと扼される。  それは、とうに限界を超えている身には酷にすぎる無限のループだ。駄々をこねるように、仁科は狂おしく腰を振りたてた。 「イキ……た、い……ああ……」  口走るはしから、狡猾な指がペニスの根元を締めつけにくる。そうやって採取した蜜を味見してみるよう、指を咥えさせられる。  ムキになって律動を刻めば怒張をいい按配に摩擦する、というぐあいに戸神の思う壺だ。  ただでさえ蠟涙(ろうるい)が層を成すごとく、蜜にコーティングされて、タコ糸は今やタトゥーのように見える。仁科がどんなにがんばっても、ストッパーが弾け飛ぶには至らない。  ところが手心が加えられるどころか、 「あっ、そこは嫌だ、いやだ、いやだ……ぁ、ああ……っ!」  かの突起に狙いを定めてすりたてられたううえに、イルカのようにすいすいと指が口腔を泳ぎまわる。  それが内奥をこねくり返す動きとシンクロすれば、本能的な恐怖に戸神を押しやってしまう。

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