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第93話

  「舌づかいが少しはマシになったな。甘口採点で今日のフェラには百点満点で十点をつけてやってもいい。この調子で予習・復習に励むんだな……」  そこで思い出し笑いに噴き出して、 「『ケツマンコ』」  仁科のものまねめかして殊更語尾を震わせると、にんまりと言葉を継いだ。 「あれは聞きごたえがあった。明日から俺に対する挨拶は、おはようの代わりに『ケツマンコ』、さよならの代わりに『ケツマンコ』なんて暗号っぽくていいんじゃない?」  ウインクで締めくくると、若干十七歳の帝王は、谷間の奥に指をすべらせた。ご褒美、と称して花芯をひと混ぜすると、その指で朱唇をこじ開けた。 「才能に恵まれてるのに宝の持ち腐れにしとくのってナンセンス。俺と相性ばっちりのマゾヒストだと自覚してスキルアップを図るのが、貴明の幸せなんだ」    荒っぽく口腔をかき混ぜながら、新たな蜜をにじませたペニスを指先でぴんと弾いた。  仁科はえずき、指を吐き出すと、戸神を突き飛ばした。とたんに力いっぱい乳首を揉みつぶされて、悲鳴を嚙み殺す羽目になったが。  放課後の旧校舎で思う存分、権勢をふるった生徒が一礼した。通学鞄を小脇に抱えて、颯爽と調理室を後にする。  軽やかな足音が遠ざかっていく。残響が消え果てたころ、仁科はようやく腰をあげた。  とろろが入っていたタッパー、脱げ落ちたままの室内履き。ぐしゃぐしゃに丸まったスラックスと下着、岸辺に打ち上げられたクラゲのように干からびて見えるコンドーム。  それらが散乱するさまが、(うたげ)の後といったもの悲しさを醸し出す。  乱れ髪を撫でつける指が粘ついた。戸神のあれかと、しゃがれ声で呟く。  図書室で調べ物、と誰にともなく言い置いて職員室を出てきた。中座したっきりでは、さすがに不審に思われる。  辻褄が合うように、職員室に戻る前にもっともらしい作り話をこしらえておかないと、誰かに追及されたさいにボロを出しかねない。  気が急くものの、全身が恐ろしくだるい。調理台の背板に寄りかかり、できるかぎりワイシャツの皺を伸ばす。  スラックスのポケットをまさぐって、スマートフォンで時刻を確認した。

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