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エピローグ

 卒業生を祝う黒板アートの生みの親は誰だろう。  仁科は教卓に背中をもたせかけて、風船で縁取られた黒板を眺めた。  三年A組の生徒たちの似顔絵と大空を(かけ)るペガサスの群れの図、という絵で彩られた黒板は花園のようにカラフルだ。  さらに今年度、このクラスを受け持った自分からのものと、在校生から卒業生に宛てたメッセージがちりばめられている。  早晩、消される運命にあるのが惜しい出来栄えで、スマートフォンを向けるとつづけざまにシャッターを切った。  戸神翔真が今日、この学び舎から巣立っていった。  二時間ほど前に卒業生総代として壇上に立ち、恩師への感謝にあふれた答辞を読んださまはまさに生徒の鑑だった。  戸神が降壇したあとも拍手はなかなか鳴りやまず、体育館が感動の嵐に包まれるなかで、仁科は別の意味で感動していた。  狷介(けんかい)な来賓ですらもらい泣きに目を赤くするあたり、戸神は見事に仮面をかぶりとおした。  仁科は今日のために新調したスーツの衿に触れた。教師歴はこの春で丸九年と、そろそろ中堅の仲間入りだ。  毎年、何人もの生徒を送り出してきた。歴代の卒業生の中にはいずれ酒を酌み交わしたいと思えるくらい波長が合う生徒もいたし、ひとまず縁が切れて胸を撫で下ろす生徒もいた。  戸神は良くも悪くも、もっとも印象に残る。  当たり前だ、と苦笑した。一昨年前の芒種(ぼうしゅ)のころに純潔を(けが)されて以降、ずっと欲望の捌け口にされてきたのだから。  昨年の春は特に運命を呪った。  志望校のランク別にクラス替えが行われたにもかかわらず、二年生次につづいて戸神を受け持つことになるとは、貧乏くじを引くにも程がある。  以来、三日にあげず呼び出されることがあれば、一ヶ月も間があくこともある、というぐあいに気まぐれに翻弄されつづけた。  仁科は教壇を下りると、教室の後方へ歩いていった。掃除用具入れのロッカーの前で足を止める。  朝早く登校してきた戸神に捕まって、彼曰く〝搾乳〟をロッカーの陰でやらされたことがあった。  バイブレータとペニスバンドが一体となったものを履いたまま授業をせざるをえなかったこともあった。  貸し出し当番の生徒がカウンターに詰めている図書室の書庫でいたぶられたときは寿命が縮まり、そのくせ下着がぐっしょり濡れるほど蜜があふれた。

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