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「・・・・それで?行ってもいいのか?」 「ひいっ!いーやぁぁぁ!なんでそんなこと言うんですかあ!」 「いやいやいや。なんというか・・溶かすのが惜しい奴じゃのう・・」 「とっ!溶かす!」 「あとはお主しか残っとらんぞ・・どうするんじゃ・・」 気が付けば大量にいたはずの殭屍は、塵煙の筆によって駆逐され、一匹しか残っていない。 気弱すぎるその殭屍は、塵煙が何気なく呟いた声に背を向けてキョロキョロと周囲を見渡すと、自身が手にしていた木片にすがるように、だばーっと大量の涙を流しながら座り込んでしまった。 夜の風だけが静かに吹くその地で、殭屍の悲痛な声だけが広がっていく。 「・・・・・・」 「どっ・・どおしまひょう・・」 「・・・・お主。名は?」 「あっ・・ありまびぇん・・」 「無い?忘れたか?」 「ちがいまずぅぅ・・売られたんでずぅぅ・・もとは奴隷で・・売られ・・た先の村が・・疫病で・・・そのまま焼かれだんでずぅぅ・・生きでだのに・・」 「・・それは、熱かっただろうな」 「あづいなんでもんじゃありまぜん・・・他の疫病の人たぢもいぎでだのに・・小屋に放りごまれで火矢を飛ばざれだんでずぅぅぅ」 「・・・・・」 「逃げだびどもいまじだ・・でも皆、火矢が飛ばされで・・ぞのまま燃えっ・・ううぅ」 「そうか・・」 殭屍は答えない。ただ、背を向けたまま木片にすがり、しゃくりあげて泣くだけだ。 塵煙は眼前でへたり込んで泣くこの殭屍を見ていると、心底気の毒になってしまった。 商人から買ったとはいえ、奴隷は奴隷。 医師は金がかかる故、病になっても家族以外は呼ばれることは殆どない。 病にかかった瞬間に、彼らは石ほどの価値も無くなってしまう。 それはどの村でも同じだろう。 「・・お主。どうする?」 「はべ?」 「もうすぐ夜が明ける。陽が昇ればお前の身体は焼けて、そのまま崩れるだろう」 「・・・・・・・・」 塵煙の声に、キョロキョロと周囲を見回すと、声と気配を辿り塵煙の立つ方角へと身体を向けた。 「・・・・」 「お前が決めろ」 そう話す塵煙の声は淡々としていて、熱はない。 その声に、首をキョロキョロと動かしていた殭屍は、やがて塵煙の正確な場所を感じ取ると、 「あの・・お願いが・・あります・・」 と、やや怯えたように呟いた。 「・・なんだ?」 溢れ出る涙をそのままに、ズビズビと鼻をすすりながら、殭屍が塵煙の立つ方角に向かって 「・・ころして・・ください・・」 と頭を下げた。 「何?」 「ぼくが・・もし・・このまま消えずに残っていだら・・いずれは・・誰かを襲い・・ます。その襲った誰かにも・・家があって・・家族がいて・・それを・・壊したく・・ない・・です」 「・・・・・・・」 「おねがいします・・」 「まいったのう・・」 まさか、そんな言葉が返ってくるとは・・。 平伏して動かない殭屍を前にして、塵煙は髪をガシガシと掻きながら軽くため息を吐くと、ゆっくりと近づいて行った。 「おい」 「・・・お願いします」 「まあ聞け。・・・今は殺さん」 「・・?」 ピクリと殭屍の肩が揺れる。頭上に疑問符をくるくると浮かばせながら、ふと顔を上げた。 光を宿さないその瞳からは絶えず、ボロボロと涙が溢れている。 「・・・お前・・いくつで焼かれた?」 「・・・確か・・十です」 「・・・・そうか。よし。分かった。お前、何処かに身を隠せるか?」 「・・・・?」 「生かしてやると言ってるんだ」 塵煙のその声に、殭屍の眉間に皺が寄る。 「・・何故です?どうしてです?」 「俺がそう決めたからだ」 「・・・僕は殭屍です。死体です。もう死んでます」 「知ってる」 「なぜですか?」 「何故だろうな?俺にも分からん。お前、このまま陽に当たらんように身を隠せ。五日目の夜、またここで落ち合おう」 「・・・・え・・」 「袍を買ってやる。ただし、お前にしか着れん特別なものだ。靴も、全て、新しいものを見繕ってやる」 「・・・・・」 塵煙の言葉を信じられないと言った様子で殭屍は見ている。

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