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第13話 聖夜 2016・12・24 ①
11月だと言うのに………
横浜に雪が降った
その光景を、飛鳥井康太の子供達は瞳を輝かせて雪を見ていた
「かぁちゃ ちれいね!」流生が嬉しそうに言う
「とぉちゃ ちゅめたいね」翔が父に甘えて言う
「ゆちはちろい!かきゅきょおりみちゃい!」と音弥がかき氷を思い浮かべて言う
太陽と大空は嬉しそうに頷いていた
大空は母に抱き着いて甘えていた
太陽は一生の腕を占領して笑っていた
個性が出て来た子供達は少し成長した顔して雪を見上げていた
康太は愛する夫に
「今年のクリスマスは白馬で過ごすか?」と提案した
榊原は「良いですね……でも何か考えが?」と優しく問い掛けた
「子供達に毎年付き合わせるのは忍びねぇからな……
何時かは……離れなきゃならねぇ時が来る
そんなに毎年……拘束していたら……何時かいなくなった時に……お互いがショックを受ける……」
康太は苦しそうに言葉にした
榊原はそんな妻の想いを汲み取り
「ならば今年は白馬でクリスマスを迎えましょう!
子供達に雪を思う存分楽しませましょう!
義父さんや義母さん、義兄さんには僕の方から話は通しておきます」
榊原がそう言うと一生が
「なら子供達にはスキー板?
それともソリを用意するか?」と訪ねた
榊原は「近いうちに皆で見に行きましょう!」と提案した
一生は「了解!子供用品の多い店を探しておくわ!」と康太の背中を押す
こう言う時、仲間の想いに触れて、康太は胸が熱くなる
流生は康太を見上げ「ひょーろーきゅん……きゅる?」と悲しげに問い掛けた
「貴史は来ねぇよ……貴史には貴史の時間がある
そろそろ解放してやらねぇとな……」
解放して………の言葉を受け、子供達は別離の予感を感じていた
子供達は兵藤貴史が大好きだった
自分達の目線に必ずいてくれ、頼もしい兵藤が好きだった
だが大学も三年に進級が確定した今………必ずや別離の時間は迫っていた
兵藤貴史は日本を背負うべき政治家となる
そんな人間を何時までも……子供達の傍にいさせて良い筈などないのだ……
必ずや別離は来る
近い将来……必ずや別離の時間はやって来るのだ
歩いて逝かねばならぬ男を引き留める事は……やってはならぬ事なのだ
流生は遠くを見つめ……
「じきゃん……なくなっちゃんらね」と呟いた
何時かは……そんなのは自分達が一番解っている
時間は流れる
学生でいる時間と………そうでなくなる時間は読み取っていた
それでも……一緒にいたいと想ってしまう
康太は流生を抱き締めた
「母がいる父もいる……オレの仲間も家族もいる……」
それらは絶対に離れる事はない……
別離の時間など来ないのだ……と口にした
音弥は「ちょれれも……」と言い涙ぐんだ
太陽も「いっちょ……」と言うと大空が「いちゃきゃったな……」と言葉にした
翔の瞳には政治家兵藤貴史が視えていた
風を切って乱世を逝く背中が視えていた
母に似た背中は一人で修羅の道を逝くのだ……
そして兵藤貴史は誰にも成し遂げれなかった偉業を成し遂げる
裂帛した叫びをあげながら……それでも兵藤は逝く
何時か別離の時間が来る事など……誰よりも解っていた
流生は手を差し出した
音弥は流生の手の上に重ねた
翔も太陽も大空も円陣を組み、手を重ねて見つめた
翔が「ひょーろーきゅんのために」と言うと
流生は「ちゃいきょーにょ」と続け
音弥が「ぷれじぇんと!!!」と言い叫んだ
太陽が「おくりゅにょ!」と言うと
大空が「みんにゃ ぎゃんびゃるにょ!」と気合いを入れた
兵藤貴史に最高のプレゼントを贈る
最期のX'masに相応しいプレゼントを贈る
そう心に誓うと子供達は走って何処かへ行った
一生は「………毎年……皆で贈るX'masは絶対に来ると想っていた……」と呟いた
絶対に……なんて約束めいた事なんて保証されていないのに……
それでも飛鳥井の家は何時でもぬくもりに満ち溢れていた
さよなら
なんて言う日は来ないと………
思っていたかった
翔は一生に連れられて東都日報の本社ビルに来ていた
目的は今枝浩二に逢う為だ
翔は「きゃめらのおにーしゃんにあいちゃい」と言ったのだ
きゃめらのおにーしゃん
それはこの前、榊原伊織に取材に来た今枝浩二の事だった
榊原に密着して写真を撮る今枝の姿を翔は身近に見て
「きゃめらのおにーしゃん」と呼んでなついていたのだ
今枝も榊原と一緒にいた子供達の事を可愛がっていた
今枝は応接室へと向かった
ドアを開けるとそこには緑川一生が立っていた
「お待たせ致しました
今枝です、何か御用ですか?」
今枝は一生に問い掛けた
一生は今枝を見ると深々と頭を下げた
「御呼び立てして申し訳なかったです
康太の子供が貴方に逢いたいと申しまして……お時間を作って戴きたく想い来ました」
今枝は意外な事だと、笑って一生に
「私に用があるのはご子息なのですか?
彼は次代の真贋、翔君ですね?」
問い掛けた
一生は「はい。良くわかりますね?」と良く区別付いたな…と想った
「榊原君から康太を継ぐ者です。と紹介して貰いましたから、覚えているのです」
と今枝は言った
今枝は翔の傍まで逝くとしゃがみ込んだ
「御用はなんだすか?翔君」
「きゃめらのおにーしゃん おにぇぎゃいがありゅにょれす!」
「はい!聞きましょう」
「かぁちゃにょ ちゃちんをとっちぇくらちゃい!」
そう言い翔はペコッとお辞儀した
「康太君の写真を……撮るのですか?」
「あい!わらっちぇるきゃお とっちぇくらちゃい!」
「笑ってる顔……解りました
最高の笑顔を撮りましょう」
「………たにょめるにょ?」
「はい!良いですよ」
翔はポケットから封筒を取り出し今枝に渡した
「これは?」
封筒を受取り問い掛ける
「いらいりょうれちゅ!
かけゆのおきょぢゅきゃいにゃにょれ……ちゅくにゃいけど……」
翔はペコッとお辞儀をして頼んだ
今枝はその封筒を翔に返して
「次代の真贋 飛鳥井翔君
何時か君が真贋になった時、独占インタビューさせてください!
その時はノーギャラでお願いします
なので今はギャラは要りません
君の将来に投資します」と言った
翔は今枝を射抜き笑った
「やくちょくは、かならじゅ はたちゃれる!
かけゆのみりゃいと、つにゃぎゃっちゃ!」
「写真はパネルにすれば良いですか?」
「あい!ぷれじぇんとにちゅるりょ!」
「では腕によりをかけます!」
今枝は翔の前に立つと、腰を折って丁寧なお辞儀をした
そして一生に向き直ると
「一生君、君は翔君のサポートなんですよね?
なら康太君を隠し撮り出来るチャンスを作って下さい!」
と注文を着けてきた
「解った。なら明日、子供達と映画館に逝くから、その映画館のバルコニーから撮れる様に申し入れておくので明日、お願いします」
「解りました
では詳細を詰めて明日に挑みたいと想います」
翔は兵藤に最高の笑顔の写真を贈る事を決めた
音弥は桜林学園 高等部学園長室のソファーに座っていた
迎え入れた神楽四季はご機嫌で音弥にお茶とケーキを出した
音弥を桜林学園 学園長室に連れて来たのは聡一郎だった
「そーちゃ おにぇぎゃいがありゅにょれす!」
と音弥に頼まれて聡一郎は喜び勇んで聞き入れてやる事に決めたのだ
「音弥!何だい?
何でも聞いてあげます!」
「あにょね、きゃぐらちきにあいたいにょ!」
「神楽四季?学園長に?
音弥は知ってるのか?」
「ちってる!ちょうらいのぱぱになりゅちと!」
「………誰に聞いたの?」
「かぁちゃ!おとたん りかいちてるきゃら、らいじょうび!」
「解りました!では四季さんに連絡して行ける様にしますね」
「おにぇぎゃいね!」
聡一郎は音弥を撫でた
音弥は隼人に本当に良く似て来た
音弥の総てのパーツが隼人だった
聡一郎は神楽四季に連絡をつけて、桜林学園へと向かったのだ
四季は「音弥!久しぶりです!元気にしてましたか?」と音弥を抱き上げて喜んだ
「ちき、おねぎゃいぎゃありゅにょ!」
音弥は四季を見て切り出した
「聞けるお願いなら聞きましょう!」
「ふりゃんくみりゃー ってとけーほちいにょ!」
え???………四季は目が点になった
「………フランクミュラー………ですか?」
「ちょう!ちょれ!」
「フランクミュラーの何が欲しいのですか?」
「とちぇい!」
「フランクミュラーの時計ですか?」
「ちょう!ひょーろーきゅんに、おくりゅにょ!」
「解りました!ご用意しましょう!」
四季はあっさり了承した
聡一郎は「…………そんな高いの…大丈夫なの?」と問い掛ける程に……あっさりしたものだった
「フランクミュラーの時計、先日買ったんですよ
買った話を康太としてるのを聞いてたんですかね?
……我が子になるべき子の我が儘は可愛いモノです」
「おとたん いっちょーかぁちゃととぅちゃにょきょ!」
「………流石……康太の子です」
四季は机の中からまだラッピングされたままの箱を取り出すと聡一郎に手渡した
「これを……どうぞ!」
「フランクミュラー……ですよね?」
「そうです!FRANCK MULLER
ダブルミステリー ダイヤ 金無垢 クロコレザー メンズです
定価8,802,000円で買ったのですが…良いです
音弥に差し上げましょう!」
半ばヤケクソ…
「………使い道がなかった預金を叩いて買っただけで、対して思い入れもなかったので……良いです
しかし……音弥……君は的確な所を突いてきますね」
「ちきはみじゅくもにょ」
音弥はさらっと言い捨てた
「………流石……康太の子ですね……未熟者とは……悔しいです」
聡一郎は音弥の口を押さえた
「君はもう黙ってなさい」
「聡一郎、気にしなくて大丈夫です
この子は未来の桜林の学園長、になる子です
果ては理事長になり導く者になる……この子にする投資だと想えば良いのです……」
投資にしては高過ぎの気がしないでもないが……
「おとたんね、ひょーろーきゅんに……
ぷれじぇんとしちゃいにょ!
もう……ひょーろーきゅんとはいっちょにいられにゃいきゃら……おくりちゃいにょ……」
悲しそうに言葉にすると四季は
「………一緒にいられない?何故ですか?」と問い掛けた
聡一郎は「貴史が大学三年に進級を決めたからです
貴史の時間を拘束したらダメだって言い出して……
別離の時間が来た時、貴史も子供達も哀しい想いをするから……だって康太が言い出したのです」と説明した
四季はそれを聞いて理解した
止まっていられない
時間は流れて果てへと続いて逝くのだから……
だが……哀しい現実だった
四季は兵藤が康太の子供達を大切にしているのを知っていた
子供達も兵藤が大好きで、仲良く過ごす写真を何度も見せてもらっていたから……
「………時は……残酷に刻まれますか……」
政治家になる兵藤は大学を出れば険しい道が待ち受けているだろう……
子供達と一緒にいられる時間は……皆無になって逝く……
そんな時間を目の当たりにする前に……距離を置く……
康太の愛だった
愛する子供達や、兵藤の逝く道を想えば……
今……距離を置くべきだと決断を下したのだろう……
四季の呟きに聡一郎は
「………彼は倭の国を背負う存在になるので……」
と逝く道の険しさを想い口にした
「まだ……あと少し……そう思うのは……いけませんかね」
「………僕も……そう思うのですが……」
聡一郎は辛そうに瞳を閉じた
四季は静かに音弥を見た
「………音弥……」
掛ける言葉が見付からなくて名前を呼ぶ
「ちかたにゃい……ひょーろーきゅんはちぇいじきゃに、にゃるきゃら……」
「………貴史はまだ君達といたいと想っています
ずっといたいと想っています……」
「……れも……ゆかにゃきゃ……にゃらにゃいきゃらね」
「君……子供でしょ?
子供なら我が儘言いなさい
言っても良い特権があるうちに一杯言いなさい」
「ちき、おとたん たくちゃんいっちぇる!
ふりゃんくみりゃーほちい
ちょれ、わぎゃみゃみゃ!」
音弥はそう言い笑った
康太に似た笑顔だった
こんな時、親子なのだと、つくづく思う
「君は……母さんにソックリ…ですね?」
「ちょう!おとたん、かぁちゃととぅちゃにょきょらもん!」
胸を張り言う
それこそが誇りだと言わんばかりに言う
そんな所は紛う事なく親子なのだと想う
血は繋がらなくとも、魂は受け継がれ親子の絆を強くしている
音弥は四季にフランクミュラーの時計を貰って、ウキウキと聡一郎と一緒に帰って行った
四季は想う
侮れない男 音弥を頼もしく想う反面
末恐ろしさも感じずにいられなかった
流生は戸浪に逢いにトナミ海運まで来ていた
流生を連れて来たのは慎一だった
クリスマスも間近に迫ったある日、流生に頼まれたのだ
「ちんいち、たのみぎゃありゅにょ!」
そう切り出され慎一は「何ですか?」と尋ねた
「あにょね、わきゃらんな にょところへいきちゃいにょ!」
「………あの……わきゃらんな……って若旦那……戸浪海里ですか?」
「ちょう!ちょれ!」
「………解りました」
慎一は戸浪の所へ電話をいれた
「あのお忙しい時に申し訳ありません
流生が若旦那にお逢いしたいと申しているので……お時間がありましたら、少しだけ流生に逢ってやって下さいませんか?」
『流生が?私に逢いたいと言っているのですか?』
「はい。」
『今日は一日中会社にいます
受け付けには話は通しておくので何時来ても構いません!』
「本当に……突然申し訳ありません
ではこれからトナミ海運に向かいますのでお願いします」
許諾を貰い慎一は流生を連れてトナミ海運まで向かった
トナミ海運の社内に入り受け付けに話し掛けると、話は通っていて直ぐに通された
エレベーターに乗り最上階まで逝くと、戸浪の秘書の田代が待ち受けていた
慎一は田代を見て「田代さん、本当に申し訳ありませんでした」と時間を作って貰って感謝している旨を伝えた
田代は笑って「社長がお待ちです!流生君!良く来ましたね」と言い、田代は流生を抱き上げた
「………亜沙美さんも今日は……会社にお見栄なんですよ
よかったら……帰りに顔を見せてやって下さい」
田代がそう言うと流生は「たちろ、おろちぇ!」と言い下に降りようとした
田代は流生を下ろした
すると「いくじょ!」と言いスタスタ歩き出した
「そう言う所は康太君に良く似ておいでですね」
「たちろ、はやきゅう!」
「はいはい!」
「はい いちろしからめ!」
「はい。怒られてしまいました
さぁ、どうぞ!」
田代は社長室のドアを開けて流生と慎一を迎え入れた
戸浪は流生を見ると立ち上がった
「流生、私に逢いに来てくださったのですか?」
「わきゃらんな!りゅーちゃ、わぎゃまま いいにちたにょ!」
「我が儘を言いに来たのですか?」
戸浪は流生を抱き上げるとソファーに座らせた
そして流生の前にココアとケーキを差し出した
流生はケーキに手を付け食べ始めた
「ちょう!りゅーちゃ わぎゃままいう ちゅもりにゃにょ!」
「ではお聞き致しましょう
君の我が儘は何なんですか?」
「りゅーちゃにぇ、ちーえむのちょーひん ほちいにょ」
「CMの商品?戸浪海運のCMのですか?」
「ちょう!あにょちーえむのおはにゃ ほちいにょ」
流生が言うと戸浪は田代に
「田代、CMの映像ありますか?」と、さっぱり解らずにお手上げだった
田代は「………あの撮影のお花、欲しいのかい?」と問い掛けた
「ちょう!ちんいちにちらべてもらっちゃけろ……
わかりゃらにゃきったにょ!」
流生が言うと慎一は
「流生があのお花欲しいと言ったんですが、花屋に問い合わせても商品のカタログの中にないと言われました」
と、切実にお手上げなのを伝えた
田代は驚いた顔をしていた
「………社長……あの花は亜沙美さんの花です
撮影の時、亜沙美さんが背景が寂しいと飾られたのです」
田代が言うと戸浪は驚いた顔をして流生を見た
血は……争えないのだ
亜沙美が花が好きなように、流生もお花が大好きだった
「………慎一、あの花は……亜沙美の名前を持つ品種改良した薔薇です……元はオールドローズですが、色が違うのです……」
「…亜沙美さんの花……なのですね?」
「そうです。祖父が花が好きな亜沙美の為に品種改良した薔薇なのです……
血は………争えないのですね
同じモノを愛で……惹かれるなんて……」
戸浪は目頭を押さえた
流生は不安そうな顔をして戸浪を見た
「………らめ……にゃにょ?」
「流生……あの花は亜沙美のお花なのです
隣に亜沙美がいるので、頼んで来てはどうですか?」
戸浪が言うと流生は嬉しそうに笑って
「あちゃみ いりゅにょ?」と問い掛けた
戸浪は「田代……」と声を掛けた
田代は流生を亜沙美の部屋へと連れて行った
慎一は流生を見送って……静かに目を瞑った
血は……誰よりも濃く……引き寄せ会うのかも知れない……
それが血なのだ……
同じDNAを持つ親子なのだ
戸浪は慎一に「心配しなくても大丈夫……あの子は康太の子です……」と声を掛けた
慎一は何も言わずに頷いた
亜沙美の部屋に連れられた流生は、部屋に通されると
「あちゃみ!」と名前を呼んだ
亜沙美は信じられない顔をして流生を見た
「………流生?……本当に流生なの?」
「あちゃみ……あいちゃきゃった!」
抱き着く腕は愛しくて……
間違う事なく我が子だった
「あちゃみ!れんきらった?」
一生に良く似ていると思っていたのに………
兄の子供時代に似てると思うようになってきた……
間違いなく……私の血が流れているのだ
こんな時に……それが解る………
「元気だったよ
今日はどうしたの?流ちゃん」
「あにょね、りゅーちゃ おはにゃほちいにょ!」
「お花?どんなお花なの?」
「ちーえむのおはにゃ」
「………え?……」
亜沙美はCMって戸浪のCMの?と想いを巡らした
田代は「戸浪のCMの時に背景を飾った薔薇が欲しいそうです
社長は……あの花は亜沙美さんのモノだから聞きに行けと仰られたので………お聞きしに参りました」
田代の言葉を聞き亜沙美は
「流ちゃんは、お花が好きなの?」と問い掛けた
「らいちゅき!おはにゃどれもちゅき!」
ちゃんと会話になる程成長したのだ
ちゃんとお話出来るようになったのだ
亜沙美は嬉しくて流生を見た
流生がゆらゆら揺れて………亜沙美は知らずと泣いていた
流生はポケットからハンカチを取り出すと、亜沙美の涙を拭いてやった
「………あちゃみ……どうちたにょ?」
撫で撫でする手は優しく……思いやりのある子に育っていた
ちゃんと人を思いやれる子に育っていた
それが嬉しくて………
それが悲しかった
「流ちゃんに久しぶりに逢えたから……嬉し泣きよ」
「あちゃみ」
流生は亜沙美に抱き着いた
愛しさが溢れだす
「流ちゃん……お花、あげるわ
好きなだけあげる」
「ほんちょ?」
「ええ。植木に植えて届けてあげる」
「あいがとう、あちゃみ」
「お花、どうするの?」
「ひょーろーきゅんにあげゆにょ!
もう……たくちゃんいられにゃいきゃら……あげゆにょ!
ひょーろーきゅん……らいちゅきらけど……いっちょいられにゃいにょ……
らから…りゅーちゃんちゅきにゃ おはにゃあげりゅにょ!」
「そう。優しい子になったのね」
人を思いやれる子になったのね……
「りゅーちゃん にーたんらもん!
れちゅ、おとーといりゅもん」
弟がいるから優しくならなきゃダメなんだと流生は言う
「そっか、流ちゃんお兄ちゃんだもんね」
優しく胸に抱き温もりを知る
随分と重くなった
桜林の幼稚舎に通いだし、言葉もはっきりして来た
礼儀も出来て……
眩しい程に……生き生きとしていた
「あちゃみ!」
「なぁに?」
「あいがちょう!」
「流ちゃんの我が儘なら何でも聞いてあげるわ」
「りゅーちゃ ぎゃまん れきるもん!」
「私には……我が儘言っても良いわよ?」
「りゅーちゃ おはにゃ ちょだてたら、あちゃみにもってくりゅね!やくちょく!」
「私に……くれるの?」
流生は頷いた
亜沙美は「ありがとう」と言い流生を抱き締めた
そして離した
「田代、お花は近いうちに植木に植え替えて持って行って頂戴」
「承知しました」
「屋敷の者に言えばやってくれますから……」
「では直ぐに手筈を着けます」
「そうしてあげてね」
「では流生君、慎一君が待っているので行きますよ」
田代が言うと流生は手をあげて「あい!」と返事をし
ペコッと亜沙美にお辞儀をした
その時、流生の服の下に隠れていたネックレスがジャラ……と音を立てて滑り落ちた
亜沙美はそのネックレスに目が釘付けになった
流生を手放した時…一緒に持たせたネックレスだったから……
あぁ……ありがとう……
亜沙美は口を押さえた
ありがとう康太さん……
傍にいられない母が想いを込めて贈ったネックレスだった
流生はちゃんと身に付けてくれていたのだ
亜沙美は涙を我慢して笑った
「またね流ちゃん……」
「まちゃね、あちゃみ」
流生は田代と一緒に部屋を出て行った
亜沙美は流生がいなくなったドアをいつまでも見ていた
我が子なのだ
手放したと言っても我が子なのだ……
愛しくて……手放したくなかった我が子なのだ……
何時か……総てを知った時……
あなたは……その瞳で私を見てくれる?
亜沙美はその日が来ない事を祈った
あの子は、飛鳥井康太の子なのだ
明日の飛鳥井の礎になる子なのだ
「………愛してるわ……私の……可愛い子……」
どんな我が儘でさえ愛しい
もっと我が儘を言ってくれても良いのに……
………あなたをこの世に産み出して……本当に良かった
母は……あなたの幸せだけを祈っています
亜沙美は戸浪から言われた縁談を断った
運命に流される日々は送りたくなかったから……
「兄さん、私は影から流生を見守りたいのです
結婚して総てをなかった事には出来ません」
戸浪は妹の申し出を受けて縁談は断った
もう二度と妹を犠牲にしたくはなかったから……
最初から犠牲にすべきではなかった
戸浪は胸を押さえた
なんの痛みも知らなかった傲慢のツケがやって来ていているのだ……
亜沙美は自分の足で歩き始めた
人生を切り開くのは自分なのだ
流生……あなたに誇れる母であろうと想います
母と……名乗ればしないけど……
あなたの母として生きたいのです
亜沙美の想いだった
田代はそれが解るから……辛い時間だった
二人、寄り添っていれば親子だった
誰よりも親子だった
だが流生は時々、総てを知っているかの様な言葉を吐く
そして確認する様に言葉を繋げる
胸を張り風を切って歩く
その姿は紛ごう事なく飛鳥井康太の子だった
精神や魂を受け継ぎし子供だった
田代は流生を社長室に連れ帰った
流生は慎一の隣に座ると、慎一を見上げて
「おはにゃ もらえたにょ!」と報告した
「良かったですね
では若旦那に流生のお花も見せてあげると良いです」
慎一に言われて流生はニコッと笑って
「あー!ちょうらった!」と言い、ポケットから写真を取り出すとソファーから下りた
そして戸浪の所に行き写真を手渡した
「きょれ!かぁちゃぎゃちゅくってくれちゃ おはにゃ!」
そう言い戸浪に写真を見せる
戸浪は写真を受け取り見ると……
「……これは?」
綺麗な鉢植えが写っていた
「りゅーちゃにょおはにゃ!」
「流生のお花?温室全部が……ですか?」
そこには温室に置かれたお花の数々が写されていた
流生の大切なお花たちだった
慎一は補足をしてやる
「伊織が作らせた温室です
伊織はかなりの親バカなので流生にかなり高額のモノでも買い与えてしまう傾向があるのです」
慎一が言うと流生はポケットからお守りの石を戸浪に見せた
かなり大きく、鉱石が入った石だった
かなりの値段がするであろう石を与えていると言う
今度は温室……どれだけ親バカなのか……
「……子供が持つには……本格的過ぎませんか?」
想わず戸浪は言った
「伊織は最高のモノを我が子には持たせたいとの考えの人なので……
我が子のためには何一つ惜しむ事なく……やってのけるのです」
「愛されてますね……あの子達は……」
惜しみ無い愛で我が子を育てている
「りゅーちゃにぇ、ちんいちとちょだててりゅにょ!」
「綺麗な花ですね」
戸浪が言うと流生はひとつの花を指差した
「このおはにゃ、りゅーちゃのおはにゃ」
「流生のお花……ですか?」
戸浪が呟くと慎一が補足を入れた
「康太が流生の為に品種改良したバラです
ryusayiと言う名前が着いてます
何でも高名な植物学者とお知り合いだとかで造って貰ったお花です」
それで納得
流生は戸浪に「これにぇ、あちゃみにあげゆにょ!」と報告した
「こんろ、もっちぇくりゅにょ!」
戸浪は息を飲んだ
花好きは妹譲りで………紛ごう事なく親子の証みたいで……
戸浪は上を向いた
でないと……涙が零れて落ちそうになったから……
「亜沙美も喜びます」
「わきゃらんな、あいがちょう!」
流生はペコッとお辞儀した
その首にキラキラしたネックレスを見付けて…
戸浪は堪えきれなくなり……涙を流した
「………そのネックレス……」
「きょれ、りゅーちゃにょおみゃもり!」
ニコッと笑う顔は………妹の幼い時に酷似して……
戸浪は堪えきれなくなり…涙が止まらなかった
「わきゃらんな……いたいにょ?」
撫で撫でする手が思いやりに満ちていた
「痛くないですよ……流生……ありがとう」
「りゅーちゃ わぎゃままいっちゃ!
わきゃらんな ほんちょにあいがちょう!」
「流生の我が儘なら幾らでも聞いてあげます
私に出来る事があるなら、何でも言ってください」
「りゅーちゃにぇ、わきゃらんな らいちゅき」
「私も大好きです
亜沙美も流生が大好きです」
ハンカチで戸浪の涙を拭いてやり流生はチュッと頬に口吻けた
「にゃきゃにゃい、おみゃじない!」
「ありがとう流生……本当に良い子に育ちましたね」
「りゅーちゃ とぅちゃとかぁちゃのきょらもん!」
だから当たり前と流生は言った
「りゅーちゃ あちゅきゃいにょためにいりゅにょ!
きょうらいも ちょう!
あちたに ちゅなげるためにいるにょ!」
明日に繋げる為にいるの……
重い言葉だった
まるで総てを悟った者の言葉の様に……
戸浪は慎一を見た
慎一は「何一つ話はしておりません」と核心を感じて言葉にした
「りゅーちゃはちゅなぎゃるためにいるにょ!
らからあちたにむきゃっちぇいかにゃきゃらめらにょ!」
「…………まだ……子供です………」
子供でいて良いのです……
何時か……煌星も……こんな台詞を言うのだろうか?
自分と言うモノを知り
その場にたっている者だけが吐ける言葉だった
流生は戸浪を見て笑っていた
その瞳は総てを知っている深い理解を示した瞳だった
その瞳は………煌星が時々向ける瞳に酷似していた
あぁ……配置された子は……こうして己の足で歩んで逝くのですね……
恨むでもなく
儚むでもなく
淡々と現実を受け止めて……歩みを止めない
流生は「ちんいち、きゃえろ!かぁちゃのときょろにきゃえろ!とぅちゃにょとぅちゃにょきゃえろ!」と口にした
慎一は「はい。帰りましょう」と言い立ち上がった
「若旦那、本当に流生の我が儘を聞いて下さってありがとうございました」
「流生の我が儘なら幾でも聞いてあげます
飛鳥井の子の我が儘なら、何でも聞いてあげます」
流生は嬉しそうに笑うと歩き出した
片手をあげて風を切る姿に康太を見る
「まちゃにぇ、わきゃらんな」
戸浪は頷いた
慎一と流生が社長室から出て行っても、戸浪の涙は止まらなかった
田代は流生と慎一を見送り社長室を出て行った
泣くなら一人が良いだろうから………
エレベーターの前に逝くと、亜沙美が部屋から顔を出して流生にバイバイと手をふっていた
流生は亜沙美と田代にバイバイと言い、慎一と共に……
エレベーターに乗り込み……帰って行った
亜沙美はずっーと流生を見送っていた
駐車場へ向かい車に乗り込むと流生は
「ちんいち、きょうはあいがちょう!」と礼を口にした
「お花、手に入って良かったですね」
「ひょーろーきゅんにぷれじぇんと、れきりゅ」
「喜びますよ」
「………きょれで……ちゃいごきゃにゃぁ?」
「来年も再来年も………十年後も二十年後も……信じていれば終わりは来ません
それを教えてくれたのは康太です」
「……ちょうきゃ……ちんじてたりゃ……おわらにゃいにょきゃ……にゃら、りゅーちゃ ちんじておわらにゃい!」
「それで良いのです
終わる日を想わなくても良いのです
想えば明日へ繋がる
想いは絶対に繋がって逝くのですから……」
「ちんいち あいがちょ!」
「はい。流生の手助けを出来て俺も嬉しく想っています」
想いは果てへと繋がって逝く
信じて諦めなければ、想いは強くなり繋がって逝く
慎一は康太に貰った繋がった今を口にした
諦めなければ想いの先へと逝ける……現実を想った
主……あなたがくれた今なのです
果てなのです
信じた言葉を流生に贈る
流生は疲れたのか慎一の足元に丸くなり眠りに落ちた
慎一は流生を撫でた
大空は瑛太の膝に座ると
「えいちゃ わぎゃみゃま いっちぇいい?」と問い掛けた
「はい。何でも言って下さい」
「きゃなをじぃたんにょときょろに、ちゅれてっちぇ!」
「清四郎さんの所へ……ですか?」
「ちょう!おにぇぎゃいがありゅにょ!」
「そのお願い、私では聞けないのですか?」
「じぃたんがてきにんにゃにょ!」
瑛太はガックリ肩を落とした
それでも大空のお願いは聞いてやる瑛太だった
清四郎に連絡を取ると撮影所にいると言った
撮影所に言っても良いかと問い掛けると、喜んで了承してくれた
瑛太は大空を連れて、清四郎が言った撮影所に出向く事にした
ビシッとスーツに身を包む瑛太にとっては場違いな所だったが……
大空の頼みだから叔父は何でも聞いてやるのだった
大空は伊織に酷似していた
だから瑛太の子だと言っても誰にも疑われない程に、二人は良く似ていた
瑛太は大空の手を引いて、清四郎の所へと向かった
大空は清四郎を見付けると走り出した
そして「じぃたん!」と大声を出した
清四郎はその声に気付き「かな!」と名前を呼んだ
パタパタ清四郎に向かって走ってくる大空が愛しかった
愛する妻が産んだ我が子なのだ
康太に託した子だが……清四郎の血が受け継がれた我が子なのだ
「かな、どうしたのですか?」
「きゃな、じぃたんにおにぇぎゃい ありゅにょ」
「お願い…ですか?」
「ちょう!らから、えいちゃにちゅれてきて、もらっちゃ」
清四郎は瑛太を見た
「瑛太、ご苦労でしたね」
「私は甘い叔父なので…ねだられると聞いてしまうのです」
瑛太は笑ってそう言った
清四郎は「君が甘いのは康太にだけではないのですか?」と意外だと口にした
「康太の子ですから」
「やはり君は甘い兄ですね」
清四郎はそう言い笑った
「かな、じぃたんにお願いとはなんですか?」
「かちゃにゃ、ほちいにょ!」
「………刀……ですか?」
「あちゅきおもいにょ かちゃにゃ……ほちいにょ」
清四郎は意外すぎる言葉に
「良いですよ、監督に言えば調達してくれると想います
でも、何故その刀が欲しいのか教えてくれますか?」
「ひょーろーきゅんに……あげちゃいにょ……
ちゃいぎょらから……きゃっきょいいにゃ、いっちぇたきゃたにゃ…あげたいにょ」
兵藤と一緒に撮影の見学に来た時に、兵藤は清四郎の持ってる刀が格好いいと誉めていた
大空が「ほちぃ?」と聞くと「欲しいな」と兵藤が笑って言った
だから大空は兵藤が欲しいと言った刀を最後のクリスマスに贈りたかったのだ
清四郎は「最後のクリスマス?それは何故ですか?」と問い掛けた
瑛太は慎一に電話をして大空が何でそんな事を言い出したのか聞く事にした
大空が最後のクリスマス…と言ったんです
そう言うと慎一は静かに説明を始めた
大学三年に進級を決めた
大学四年で卒業したら……その先は兵藤には険しい道が待っていた
そしたら……時間は取れなくなるのは目に見えていた
そしたら……離れなきゃいけない時は必ず来るのだ
その時を迎える前に……少しずつ距離をとらせるつもりだと…康太は言っていたと瑛太に伝えた
瑛太には弟の想いが解った
弟の想いが痛かった
瑛太は清四郎に康太の想いを伝えた
清四郎は必ず別離はやって来る……
止まってられない時間は流れていく
だが……まだ一緒に……
そんな事を考えて……
一緒にいる時間が長ければ長い程に……やがてやって来る別離を想った
だから………今………なのですか?………
その想いが刹那かった
「解りました!監督に話をつけて刀を貰ってあげます」
と了承した
本当に優しい子に育った
清四郎は大空を抱き上げた
瑛太はそれを見ていた
清四郎と大空は血の繋がった親子だった
親子だと名乗れぬ親子だった
まるで自分と翔の様で………
瑛太は翔に見られるのは嫌だった
その瞳ですべてを見通し……やがて真実を知ってしまうから………
清四郎は大空に「かなは優しいですね」と口にした
「きゃな、かぁちゃととぅちゃにょきょらから、おもいやりたくちゃんありゅにょ」
清四郎は笑った
「君は康太にソックリです
顔は伊織にソックリです」
受け継がれ飛鳥井の明日に組み込まれ生きていく我が子だった
見守ると妻と決めた子供だった
「じぃたん きゃな、ぱふぇたべちゃい!」
まだ撮影は残っていた
しかも時代劇の衣装のままだった
だが監督の所へと大空を連れて走った
「監督、孫が逢いに来てくれたのです!
パフェが食べたいと言うので……休憩を取っても構いませんよね!」
強引に大空を監督に抱っこさせて、断れなくする
村松監督は「清四郎さんに似ていますね」と口にした
清四郎は嬉しそうに笑って
「次男の伊織は私にソックリなんですよ!」と親バカ発言をした
次男を知っている村松は榊原を思い起こす
「あぁ、伊織君は清四郎さんにソックリでしたね」と言葉にした
だが…榊原と康太の子は全員養子だ
男同士では子は成せない
なのに……大空の顔は榊原にソックリで、間違う事なく親子だった
詳しい詳細まで知らぬ村松にとっては不思議な出来事だった
清四郎はちゃっかり刀まで要求してきて
村松は「……解りました、予備の刀をお渡しします」と折れるしかなかった
大空は清四郎の腕から下りるとペコッとお辞儀をした
「ありがちょうごじゃいまちゅ!」
村松は想わず大空を抱き締めた
可愛すぎでしょ……これは……
清四郎が瑛太と大空と共に出掛けて逝くと、清四郎のマネージャーが
「あの子は榊原真矢と清四郎との間に出来た子供なのです
だから似ていて当たり前なのです」
と、事情を話した
村松は我が子、康生を見た
「………あの子は……清四郎さんと真矢さんのお子さんなんですか……似ていて当たり前ですね」
康生は父の傍に逝くと、涙脆い父を抱き締めた
「真矢さんは高齢出産をしてまで、康太さんが望むならば……と、妊娠なさったのです
そして我が子を康太さんに託した
あの方達は我が子を……孫として育てているのです
飛鳥井康太さんの六人のお子さんのうち三人は真矢さんのお子さんです」
親の深い愛を想う
村松は堪えきれなくなって泣いた
その肩を息子の康生が優しく抱き締めていた
似てる筈だ
榊原伊織も……大空も……真矢の産んだ子供なのだから……
マネージャーは嬉しそうに
「大空君と太陽君は双子で、烈君と言う末っ子は清四郎さんに良く似た子でね
私は康太さんに烈君を連れて歩いても良いと謂われて連れ歩いてます
烈君は人を視るのが使命だとかで、時間が出来ると撮影所に来てますよ」
「羨ましい話だね
康太の子を連れて歩いても良いだなんて」
村松は少しだけ羨ましそうに謂うと
「ならば私は康太の子供達が見て楽しめる映画を沢山撮るとしよう!」と果てを夢見て言葉にした
長生きする理由が出来た
康生は「父さんが倒れたら僕が意思を継いであげますね」と揶揄した
「馬鹿者!まだまだお前には教える事が沢山あるんだ!」
まだ監督の座は譲らないからな!と暗に口にした
康生は笑っていた
幸せそうに笑っていた
後日、清四郎から刀を渡されると大空はリボンを手にして
「じぃたん、むちゅんで!」と要求した
真矢は笑ってそれを見守っていた
清四郎は不器用な手でリボンを結んでやっていた
そこへ太陽がやって来て
「ばぁたん ちょお、いにゃいにょ?」と問い掛けた
真矢は「笙?呼んであげるわ」と喜んで笙を呼び出してやった
兵藤貴史に贈るプレゼントを各々が模索して逝く
そんな子供たちの成長は嬉しくもあり……淋しかった
呼び出された笙は慌てて飛鳥井の家にやって来た
笙を射程範囲内に納めて太陽は嗤った
その顔を見て笙はゾミッと背筋を凍らせた
この子……やっぱ僕に似てる
笙は想った
叔父と言う事になっているが、実際は年の離れた弟だった
似てて当たり前なのだが……複雑な気分だった
「ちょお!ちな、おにぇぎゃいありゅにょ!」
単刀直入に切り出され笙は
「何でもお聞き致しますよ王子様」と答えた
「あにょね、ちなね、ちょおぎゃちーえむちた、ちゅのびょーほちいにょ!」
笙がCMしたのはココアのCMだった
スノボーした後に暖まる飲み物のCMなんだけど…
欲しいのはスノボ?
「神野に聞いてあのスノボ貰ってあげるよ」
「ひょーろーきゅん やりたい いっちぇた
らから、ちゅのびょーおくりゅにょ!
ちゃいぎょのくりちゅまちゅらから……ほちいにょあげゆにょ!」
「……最後のクリスマス?何で?」
笙は想わず呟いた
清四郎は瑛太から聞いた事を笙に教えた
笙はそれを理解した
道は逝かねばならない
逝けば道は……重なる時をなくすだろう……
その前に距離を取ろうと言うのは……子供の為なのだろう……
悲しい現実があった
子供達は……それを受け止め……最後のクリスマスプレゼントを贈ると決めたのだ
だから兵藤が欲しがっている最後のプレゼントを用意しているのだと……
笙は耐えきれなくなり
「神野に聞いて来ます」と言い家を出た
悲しい……
悲しすぎる……
こんな想いは悲しすぎる……
まだ五歳近くの子が選択しなければならない現実にしては……辛すぎる
人は永遠には一緒にはいられない
解っている
解っているが………
それを受け入れて……その時を迎えようとしている子供の想いが……
堪らなかった
笙は走って……走って………崩れるようにして踞った
「………何でこうも……苦しいのさ!!」
泣きながら事務所に顔を出すと神野はギョッとした
「………笙……何があった?」
神野が声をかけると小鳥遊が笙の傍へと行き、肩を抱いてソファーに座らせた
笙は苦しい胸のうちを打ち明けた
小鳥遊は康太の想いが痛くて……
顔を覆った
康太の子供たちも、兵藤も知っている
仲の良さも知っている
本当に子供達は兵藤が好きで懐いているのを知っている
それだけに……距離を取ろうとして最後のクリスマスだと言う子供達の想いが痛すぎた
神野も上を向いて……涙を遣り過ごそうとした
「……優……スノボ、撮影の時のスタッフに聞いて取り寄せてやってくれ!」
神野はやっとの想いで口にした
小鳥遊は「はい。」と言いPCの前に行きポチポチ調べものを始めた
神野は「………辛いな……子供が味わっていい悲しみじゃねぇだろ?」と口にした
笙は「時は……残酷ですね……そりゃ何時までも仲良くなんてお伽噺の世界なんて……在りませんけどね……
それでも……あの子達はまだ子供なんですよ?
幼稚舎に通い始めたばかりですよ?」と悔しそうに……呟いた
我が子にそれをさせる康太の想いは……
もっと辛いのだろう
神野は兵藤貴史を思い描き
「………兵藤丈一郎を凌ぐ政治家になる宿命を持つ……
彼の逝く道の険しさを考えたら……交わらぬ明日を考えねばならないのかも知れないけど……」
これは辛すぎる……
小鳥遊は総ての手筈を整えると立ち上がった
「午後からスノボを受け渡して貰いに向かいます
笙はどうします?」
「逝きます!僕が頼まれたのですから……」
笙はお願いします!と言い深々と頭を下げた
神野は「俺も逝くわ!」と言った
小鳥遊は「なら皆で逝きますか?その帰り飛鳥井に押し掛ければ良いですね…」と言葉にした
一番辛いのは……
子供達にその選択を強いている康太だろう……
それが解るから彼等は飛鳥井に逝く事を決めた
神野は「彦も呼ぶかな…」と辛気臭くならない様に思案した
笙もそれが解るから
「なら僕は蒼太呼ぼうかな?」と友と一緒に逝く算段を口にした
辛い選択をする康太や子供達を護りたいのは……笙や神野達も同じだった
笙は涙を拭いて立ち上がると
「では太陽にスノボが手に入ったと伝えてきます
その時に神野達も夜には来ると伝えときます」
元気にそう言い……事務所を出て逝った
笙を見送った神野は
「………空元気……」と呟いた
小鳥遊は神野を抱き締めて
「じゃ僕達も空元気で頑張りましょうね」と伝えた
神野はバツの悪い顔をして
「解ってるよ!」と言った
解ってるよ……と言って誰よりも泣くのに……
小鳥遊はそう想い、そこが神野の良い所なんだけどな……と想った
笙は飛鳥井の家に戻った
真矢と清四郎は笙の瞳の腫れぼったさに……気付きながらも何も言わなかった
笙は元気に笑って
「後で取りに行きます!
夜には手に入ります」と太陽に告げた
太陽は笙の顔を見て
「ぎょめん……ちょお……」と謝った
「最高のクリスマスプレゼント
用意するからね!」
「あいがちょー!」
「太陽……僕に出来る事なら……何でもしてあげます」
「ちなね、ひょーろーきゅん らいちゅきにゃにょ……
らからね、はにゃれちゃくにゃい……ちょれは……いやにゃにょね……」
言葉をなくし……笙は太陽を見た
「れもね……かぁちゃが……ちゅきにゃら、あいてをおもわなきゃらめらって……」
痛い……
痛い……
痛い……
痛すぎる……
太陽はそう言いニコッと笑った
「わきゃれじゃにゃい
ちゅぎにょ、ちゅてっぷにいきゅらけ」
別離(わかれ)じゃなく次のステップに逝くだけ……
その台詞は…ランドセルも背負ってない子供が言うべきじゃないよ……
笙はそう想った
「ひなの癖に……」
笙が言うと太陽は
「ちょおーのくちぇに!」と応酬する
旗から見たら兄弟喧嘩に見えて真矢は笑っていた
「ひななんてオムツ取れたばっかじゃん」
「ちょお あちゅにゃにおきょられちぇるじゃん」
「このぉ!」
「きょのぉ!」
伊織としてこなかった兄弟喧嘩を、その息子とする
何だか不思議な気分
「ぷんっ!」
太陽はぷんっ!とそっぽを向いた
「フンッ!」
笙もそっぽを向いた
真矢は「あらあら……」と太陽を抱き上げた
烈がヨチヨチやって来ると、太陽はお兄さんの顔をして
「れちゅ!」と傍に逝き世話を焼いていた
「にーにー」
烈は兄に甘えて抱き着いた
真矢は「今日は……康太はいないの?」と問い掛けた
飛鳥井の家にいたのは京香だけだったから……
「康太はずっと忙しいのだ……
何日も帰ってこない日もある」
「何をしているの?」
「飛鳥井を護る為だけに康太は存在する
その為に動いている時は……誰も解らない
でも必ず帰ってくる……だから我は康太を待つ」
京香は凛として答えた
真矢は「……そうね。」と微笑んだ
「最高のクリスマスにしなきゃね……
今年は白馬で迎えるんだったわね
私達も白馬へ逝きます
白銀のクリスマスね……素敵
白馬は今年は近年稀に見る大雪だと言うから、子供達はソリで楽しめるわね」
「クリスマスには康太は子供達と迎える
それまでの辛抱だ……」
京香は自分に言い聞かすみたいに言葉にした
クリスマス
みんなで迎えるクリスマス
最高のクリスマスになりますように……
真矢は心から祈った
12月23日
子供達は飛鳥井の家から飛び出した
「よち!いくじょ!」
流生が掛け声をあげると気合いを入れて全員、全力で走りだした
目的地は井筒屋
チキンを買いに逝くのだ
チキンを買ったら車に詰め込み白馬へと向かう
白馬でクリスマスを迎えるのだ
このスケジュールは誰にも教えてはいなかった
康太は子供達に「走ったら転ぶぞ!」と声をかけた
大空に「ちょれ、かぁちゃも!」と返され
「オレは大丈夫だ!」
音弥に「かぁちゃ、おちちゅくにょ!」とドウドウされて
「落ち着いてる……音弥、オレは猛獣じゃねぇぞ!」
康太か文句を言うと榊原が
「奥さん、早く行きますよ」と肩を抱いた
「なぁ伊織……年々子供達が嫌な性格になって逝くな…」
「成長しているのです」
「………そのうちギャフンと言わされるのか…オレ?」
「僕達の子ですからね
その日は結構近いかも知れませんよ」
「だよな……オレ等の息子は親に似て良い性格してるからな……」
「言わないの……それは、それより井筒屋のチキンでしょ?」
「そうだった!うし!逝くぞ!」
康太は走り出した
榊原は愛しき妻を目で追った
愛しき我が子を目で追った
………本当は君が一番淋しい癖に………
ここ最近の空元気な康太を見ていて榊原は想う
でも口には出さない
康太が決めた事ならば、榊原は受け入れると決めているから………
口に出す事はしなかった
井筒屋まで走って逝く道すがら
タッタッタ……と警戒に走り………ベシャッ……と転けた
康太が転ぶと子供達もバタバタと連鎖して……倒れた
音弥が「ワーァン」と泣き出した
榊原は子供達に近寄り、起こした
子供達はお膝を擦りむき泣いていた
榊原は子供達を起こすと、康太を起こした
「また今年もやっちゃいましたね」
榊原が言うと康太はバツの悪い顔をした
榊原は子供達や康太が怪我をしていないか確かめた
確かめて絆創膏を貼っていった
「本当なら消毒してからじゃなきゃダメなんですがね……」
外で消毒も満足に出来ない状態の怪我ならば、取り敢えず絆創膏を貼って様子を見るしかなかった
榊原は子供達に「おうちに帰ったら消毒しましょう」と言い服の上から優しく撫でてやった
そして康太には掌の傷に口吻け
「家に帰ったら消毒してあげます」と優しく言った
井筒屋の店に駆け込むと、おばちゃん達は待ち構えた様に「いらっしゃい!」と声をかけて来た
康太は笑顔で「おばちゃん、また今年も頼むな!」とチキンを要求した
おばちゃんは「康太ちゃんちのは取ってあるから走って来なくても大丈夫だよ」と言うけど、本当に嬉しそうだった
毎年、これを見なきゃ年末はやって来ない
そう想う程に年末の恒例行事と化していた
榊原は予約しておいた、丸ごとチキンと唐揚げとローストビーフと沢庵の代金を支払いに向かった
…………レジの前に立つ榊原は、服の裾を引っ張られて
また今年もですか……と想い振り返ると、音弥が
「とぅちゃ きょろっけ くいちゃい!」と言い、コロッケを指差していた
康太は子供達とコロッケに熱い視線を送っていた
榊原は「……あの、コロッケも入れて下さい」と毎年恒例に顔を緩めた
おばちゃんは「あいよ!」と言い康太と子供達と一生と慎一の分を数に入れた
そして精算
精算が終わるとおばちゃんは榊原に熱々のコロッケを差し出した
「はいよ!オマケ」
「何時もすみません」
榊原はコロッケをもらい受け口につけた
熱々のコロッケの美味しさに
「本当に美味しいです」と口にした
おばちゃんは「今年は早いんだね」と毎年、何があっても24日にしかクリスマスをしなかったのに……と想い問い掛けた
「今年は子供達に雪を見せてやるつもりなので、旅行に行くから早目に取りに来たのです」
「おっ!こんな寒いのに寒い場所に行くのかい?
気を付けて行っておいでよ!」
おばちゃん達は優しくそう言った
子供達は「「「「「あい!」」」」」と返事をした
井筒屋のお買い物を終えると、康太は堂嶋を呼び出した
飛鳥井にやって来た堂嶋は静まり返った飛鳥井の家に
「ご家族はどうされました?」と問い掛けた
「家族は旅行に行った
オレ達もお前にこれを託したら出かける」
「何処へ行かれるのですか?
お聞きしても宜しいですか?」
「母ちゃんが寒いから我は沖縄かハワイに行きたいわいな!と言ったからな沖縄に逝くんだよ」
「羨ましい限りです………が、本当の事は……聞かせては貰えない……と言う事なのですか?」
堂嶋は淋しいそうな顔でそう呟いた
「正義、お前に託したいのは………子供達が精一杯頑張って作った貴史へのプレゼントだ
このプレゼントを貴史に渡してくれないか?」
「………良いですよ?
貴方が言うのなら、俺は喜んで引き受けましょう
ですが、引き受ける以上は……総てお聞きしたい
話しては下さらないのですか?」
そう言われ康太は覚悟を決めた瞳を堂嶋に向けた
「正義、オレもそうだけど、大学三年に進級を決めた」
「それはおめでとうございます!
今度プレゼントを持ってきます」
「大学は遺す所一年だ
確実に貴史は進級を決めて大学を卒業するだろう
貴史は日本の逝く先の礎にならねばならぬ存在
道は……別離れねばならない
どんなに願っても……重ならない
子供達の為にアイツは自分の時間を削って………いるんだ
そんな事をやっちゃいけないのはオレが一番知っている
アイツの逝く道を……邪魔しちゃいけねぇんだ!
だから……何時か来る別離の前に……距離を取らねぇと……子供達には辛い現実となる
アイツ等は貴史が大好きだからな
一緒にいたいとせがむだろう
だが……一緒にいられる時は尽きて来ているんだ
今……苦しくても悲しくても距離を取らねぇと……
子供達はアイツと一緒にいたいと……想うだろう」
「……一緒にいちゃダメなのですか?」
許される限り一緒にいれば良い
それの何処がいけないのか?
堂嶋には理解できないでいた
「貴史はどんなに忙しくても時間を作るだろう
アイツ等の為に時間を作るだろう
自分を犠牲にして……それをやり遂げるだろう
それは確実に……続く未来なんだ
だがそれはしちゃぁ………いけねぇんだよ
貴史はそう遠くねぇ未来に結婚する
家庭を持ったら家族が出来る
………貴史は家族は大切にする男だ
だが……オレの子供達を優先するだろう……
そしたら家族は……悲しい想いをしねぇとならねぇ……
親に愛されてないのか……なんて考える子供は幸せだと想うか?
誰かの犠牲の上にしか咲かない花ならば……それは早目に手折るしかねぇだろうが……
政治家になる為に生きる時間は容易なモノじゃねぇ
その道を逝く貴史に……余分な事は考えさせたくねぇんだ……」
康太の想いが痛かった
何時か来る日の前に……距離を取り……別々に生きると言うのか………
堂嶋は「………貴史は……貴方の為だけに生きている……」と言葉にした
康太の為だけに生きている男に、康太のいない時間など送れる筈などない
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